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26話 小さな世界

<登場人物>

・ルナ:月から来た魔法使い。月年齢で十歳

葵星あおせ:異世界転移した在宅ぼっち。地球年齢で三十歳+α

未心みこ:初めて出会ったステラの住人。ステラ年齢で十七歳

・ピコ:持ち運びも可能な球体の投影機プラネタリウム

・チョコ:星空の魔法で人間になった、元トイプードルの少年。

・イチゴ姫:星空を独占した王国のお姫様。チョコの元飼い主。


<前回のあらすじ>

 手探りに上演されたチョコが語り部を務めるプラネタリウム。

 観客参加型のプラネタリウムは、1つの形の成功を収めた。

 疲れがたまるとチョコは魔法が解けやすくなるらしい。

 そんな時を見計らってか、未心が心配しに来てくれる。

 水をくれて、その後、おでこに指をちょんとつけてくる。


「<???に変身する能力(???・フラップ)>」 


☆彡


 目が覚めるとそこは生まれ育った場所だった。

 自分の匂いが染み込んだクッションは、今の体では枕にしかならない。

 体の上を小さきものが歩いている。

 てくてくと小走りで鼻の上をかけられるのはくすぐったあった。


「よぉ!」

「お久しぶりですわ」


 ネズミが二匹、手を振っている。


「ネズミが喋った!」


 驚きのあまり鼻息をこぼすと、ネズミはチョコの顔から落っこちてしまった。

 また懸命に顔を登ってくる。


「おい、突然ひどいじゃないか」

「そうですわ。聡明な人間様なんですから、愛玩動物は丁重に扱っていただきたいですわ」


 この喋り方、雰囲気、ネズミ。間違いない。ボクの親友だ。

 あまり顔を動かさないよう、チョコは慎重に口を動かした。


「ジャック、メリー」


 オスがジャック。

 メスがメリー。

 もちろんネズミなのでペットではなく、勝手にお城に住み着いているだけだ。

 種族の垣根を飛び越えた、犬時代の友達だ。


「久しぶりだな」

「お久しぶりですわね」


 人の目には二匹の表情の機微までは読み取れなかったが、喜んでくれてるのは伝わってくる。


「人になってから、人以外の声が聞こえたのは初めてだよ」

「そらお前、俺たちが喋れるようになったからだよ」

「へ!? どうやって!?」

「魔法をかけてもらったのですわ」

「誰に?」

「お前をここまで運んでくれたお嬢さんだよ。二匹いたな。お城の構造を隅々まで教えてくれたお礼にってな。声の綺麗なウサギちゃんだったな」

「ウサギって魔法を使えるのですわね」

「不思議といえばウサギだからね」


 チョコはその説明で納得している。


「願い星は根こそぎ徴収されているけど、動物は対象外だったんだ」

「ネガイボシ?」

「誰しもが持ってる一番大切な願い事だよ。星空に祈ると叶うんだ」

「ほしぞら?」

「さっきのキラキラしたお部屋のことですわ。ウサギさんが案内してくれたのですわ」

「あー、あれか! なんか、すごかったな!」


 ジャックとメリーは楽しそうに、髭をひくひくと震わせる。

 床下で暮らす彼らにとって、幻想的な光景だったに違いない。


「ジャックとメリーは、人と喋りたいって願ってたの?」

「おう! これで食糧調達がしやすくなるってもんだろ」

「舌の肥えた私たちは拾い食いできる程度のチーズでは満足できないんですの。シェフと交渉をするのですわ」

「なるほど。頑張ってね!」


 時計の針がカチッと触れる。

 その音が少し尖っていて、チョコはびくりと驚いた。

 言葉と同じように、時間も分からなかった時は、針の向きを気にしていた。

 長い針と短い針が真っ直ぐ上で重なると、姫様との散歩の時間だった。


「そういえば、どうしてお城に連れてこられたんだろう?」

「合わせたいやつがいるって、うさぎちゃんは言ってたぜ」

「誰……?」

「お楽しみですわ」

「じゃ、お前が元気そうで何よりだよ。達者でな!」

「ですわ!」


 にやにやとしながら、ジャックとメリーはタンスの下へと走っていった。

 まだちょっと痛む頭をクッションに寝かせた。

 下手に動いて城の人に見つかっても厄介だ。

 待っていた方が得策だろう。


 夜を恐れた遠くの街灯が差し込む動物部屋。

 犬小屋やボール、キャットタワーが散乱しているのを、ぼうっと眺めていると、ドアががちゃりと開いた。

 その音はよく、姫様が入ってくる時の音を思い出した。


「チョコちゃん、いる……?」


 恐る恐るといった様子で覗いてくるのは女の子だった。

 きりりと切れ長な目つき。ドアの縁を掴んだその爪が長く、派手なピンク色をしていた。


「誰」

「あー!」

 

 彼女はパーっと笑顔になって指さしてくるが、ボクは相手が誰か見当がつかない。

 新しいメイドさんだろうか。

 艶やかな長い髪。ボクよりも一回り小さな女の子だけれど、喧嘩をしたら引っ掻かいてきそうな気の強さを感じた。


「ねぇ、私の姿、どう?」


 彼女は左右に揺れて、白いフリルをひらめかせた。


「あの、誰、なの?」

「私が誰かじゃなくて、私の姿はどうかって聞いてるのっ」


 穏やかな声とは裏腹に、目つきがきっと鋭くなる。

 緊張と焦りで、言葉を選ぶことなく感想を口にした。


「可愛い、です」

「ふむ。よろしい」


 彼女はえへん、と腰に手を当てて満足気だ。

 タイミングを見計らって、再び聞く。


「ねぇ、誰なの?」

「私の正体はっ……、なんとね!」


 もったいぶって彼女が正体を明かそうとする。その時。


「ミルクじゃないか」

「ミルクさん、遅かったですわね」


 タンスの上から、ジャックとメリーがネタバレを繰り出す。


「先に言わないでよ、このネズミっ」

「逃げろー」


 野次は物陰に去っていく。

 きしゃーとミルクが威嚇する。


「本当に、ミルクなの?」


 ミルクは、楽しそうに微笑んだ。


「そうっ、私がミルクだよっ。凹んでるっていうあんたを元気付けてあげるんだから、感謝しよね!」

「……ミルクぅー!」


 ボクは盛大に抱きついた。


「ちょっ、まっ」

「ありがとー! 本当にありがとー!」


 ミルクの髪が爆発したように逆だった。


「もう、離してよ」

「ボクを元気づけるために人間になってくれたの? そう願ってくれんたんだね?」

「……違うわよ! かわいい姿を見せつけたかっただけなんだから」

「でも元気出たよ!」


 ミルクはチョコと同じ部屋の同居人だった。

 高級感漂う気品高き猫。

 こちらから遊ぼうと言っても応えてはくれないくせに、こっちが気持ちよく昼寝をしている時に限ってちょっかいを出してくる。

 あの頃は仲良くできなかったけど、再会すると嬉しさが込み上げるものだ。


「なんか赤いけど大丈夫??」

「これは、赤い顔の人間にしてってお願いしたからだよ。私は、その、赤、が、赤色が好きだから!」


 ミルクはせっかくの艶やかな髪を指でぐるぐる巻いている。


「白猫なのにね」

「うっさいバカ犬!」


 突き飛ばされた先で、ボクは笑い出してしまう・


「あはは」

「な、何がそんなにおかしいのよ。この姿、やっぱり変?」

「ごめん。おかしいんじゃなくて、嬉しいんだよ。ミルクに会えて、嬉しい」

「何よそれ。本当に会いたい人は別にいるくせに」

「うん。会っても何もできないんだけど」

「犬なんだから、大したことはできなくていいのよ!」


 ミルクはしゃがみ込み、俯くチョコの前髪を払う。瞳を覗き込んで、視線を逸らさない。


「私たちにしか出来ない特別なことがあるんだよ」


 ミルクはさも楽しいことのように提案する。

 その笑みは、悪巧みをする子供のように、可愛らしいものだっt。あ


「ボク、たち?」

「そうなのよ。チョコ一人じゃダメなんだけど、私が手伝ってあげると完璧になるの。お姫様を喜ばせてあげられるものよ」

「これはボクの問題で……。痛い!」


 頬を引っ掻かれた。

 予備動作もない攻撃だったので、避ける間は与えられなかった。


『チョコちゃんとお話ししたかったのぉ、あなたがいなくなって寂しかったんだからぁ』


 唐突な猫なで声まに、ボクは思わず動揺した。

 ミルクは顔を真っ赤にして慌てていた。


「え、今言ったの私じゃないよ」


 視線の先のミルクはあたふたとし、足元のネズミの存在に気付いた。


「またあんたたちか」

「気持ちを代返してあげただけだろう」


 ジャックはミルクの足に、やれやれといった様子で寄り掛かる。


「うるさい。猫に戻ったら動物の世界のやり方で退治してくれる」

「動物の世界のやり方ってなんですの?」

「弱肉強食」


 ミルクは八重歯を光らせた。


☆彡

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