25話 チョコのプラネタリウム
<登場人物>
・ルナ:月から来た魔法使い。月年齢で十歳
・葵星:異世界転移した在宅ぼっち。地球年齢で三十歳+α
・未心:初めて出会ったステラの住人。ステラ年齢で十七歳
・ピコ:持ち運びも可能な球体の投影機
・チョコ:星空の魔法で人間になった、元トイプードルの少年。
・イチゴ姫:星空を独占した王国のお姫様。チョコの元飼い主。
<前回のあらすじ>
チョコは想い出の場所でイチゴ姫ともう一度会う。
人間になっても何も出来ない自分に、無力感を覚える。
稽古二日目。
舞台に腰かけるルナに、一同は注目していた。
「未心ちゃん、例のものを」
「ははっ」
ルナの合図で、未心はスマホを取り出した。
「今回もリプは上々だよ」
「うむ、褒めてつかわす」
ルナのプラネタリウムの特別上映が決定と、NLSで投稿されていた。
舞台はこの広場だ。
「でも、夜になったらまた騒がしくなるよ」
「<消音・消灯>するから大丈夫」
「あと問題なのは」
葵星はうぅむと顎に手を当てた。
「王都で上映して、星を映せるか、だね」
「邪魔されちゃったけど、私のステージでは星空を映せてたよ」
ピコが映す星空は、観客の抱く願い星に依存する。
最初はスタッフ側の星が現れる。
星の輝きを見て願い事を祈ってくれたら、その数だけ星が増える。
夢や希望を源にして、ピコの星空は広がっていく。
だから、誰も願うことを知らなければ、星空は消失する。
「ルナが踊れば大丈夫だろ」
「あおくん、プラネタリウムはダンスステージじゃないんだよ」
ルナが諭す。
「大丈夫。もしもの時は、<星空の魔法>を使っちゃおう」
<星空の魔法>は、葵星のいた世界から星空を持ってくる魔法だ。
ステラの星空を取り戻すこととは相反する、奥の手だ。
「だからチョコちゃん、頑張ってね」
「……何を?」
「今期の主役は君なんだから、語り部を務めてもらうよっ」
「……へ!?」
☆彡
仮設置したコンソールから客席を覗く。
嬉しいことに客席はいっぱいになった。
ダンスステージ古参の姿も見えて、葵星はちょっと嬉しかった。
ルナは客席から看板俳優を見守っている。
現在の星空の輝きは、三つだけ。
それでも珍しい光景に、客席はじっと息を呑んだ。
「いやー、綺麗な星空ですねー。ずっと見てたいですよねー」
チョコの語り部。
焦っているのか、情緒が分からないのか、空気を読まずにしゃべり続ける。
「ただ見てるだけだと退屈だから解説していきますよー」
(え、もう!?)
ピっと、カーソルを夜空に映す。
チョコの指に合わせて、葵星は矢印を動かした。
「昔は普通に見れたのにねー。しかももっと綺麗だったんですよ。……もったいない世界ですねー」
もったいないのは雰囲気を壊される今の状況だった……。
「一番星がどれか教えましょう。えっと、あれぇ、よく見えないなー」
落ち着きなくチョコは動き続けてしまう。
背伸びをして天を仰ぐ。
「一番輝いているのが一番星……って、分かんないよー」
「分からないなら降りてくれないかな」
客席から指摘が入る。
怯えたようにチョコが震えた。
「静かに見たいんだけど」
「でも、伝えないといけないことが沢山あって」
「だったらちゃんと解説をしてよ」
「今してるじゃん」
「君が分からないことしか分からないよ」
「今から分かるところなんだよ」
「それでもプロ!?」
「つべこべ言うなら一緒に考えてよ。どれが一番明るいのか!」
「一番右のに決まってるじゃない」
「いや、上のやつだろ」
「え、違くない?」
ざわざわと客席で議論が始まり、ゾロゾロと彼らは立ち上がってしまった。
「あの、皆さん、お静かに……」
「あれはどう? 明るく見えるんだけど」
「あっちの星と同じ位じゃん」
「じゃああれは?」
「近くの星よりも暗いじゃん。ちゃんと見てよ」
「なんか増えてない?」
「場所を変えると見える星もあるんじゃないか?」
チョコのプラネタリウムはさながら、<地動説>式を実現した。
プラネタリウムには二つの形式があった。
一つは従来の座って見る形式。
視点が固定され、星空が動く。
これは<天動説>式だ。
もう一つが、固定された星空を、視点を変えて自分たちが動く、<地動説>式だ。
葵星のいた世界は地球が動いていたので、地動説を取り入れるのが正しかったのだが、プラネタリウムは結局、天動説を選んだ。
語り部どころでなくなったチョコの元へ、ルナが登壇した。
「ほら、チョコちゃんも一緒に探そ」
「う、うん」
まるで、星空を散歩するような光景だった。
不思議なもので、一番明るい星がどれかという意見は人によって全然違った。
彼らが見つけた一番星が、彼らの願い星なのかもしれない。
「葵星さんも、いいんじゃないですか?」
コンソールに未心が遊びに来る。
「いいって、何が?」
「一番星を探しに行きましょうっ」
ぐいっと腕を引っ張られて、葵星も未心と散歩に出る。
まだまだ頼りない星空だけど、元いた世界では旅行にでも行かないと見られない光景だ。
「葵星さんの一番星はどこですか?」
「あぁ、ちょうどルナが指差しる辺りだ」
「二人の願いは近くにあるんですね」
「あ、ああ」
こそばゆく、歩きづらい。
未心にずっと腕を組まれていた葵星は、チョコのようにしどろもどろな言葉遣いになってしまう。
たまには<地動説>式プラネタリウムも、良いものだった。
「未心ちゃんにとって、一番星はどこにあるの?」
「うーん、私はね」
彼女の腕が、葵星の腕を這うようにして降りてくる。
ひんやりと温もりのある手が、葵星の掌を掴んだ。
「全部、くすんで見えるんだ」
☆彡
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