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16話 星空泥棒

<登場人物>

・ルナ:月から来た魔法使い。月年齢で十歳

葵星あおせ:異世界転移した在宅ぼっち。地球年齢で三十歳+α

・ピコ:持ち運びも可能な球体の投影機プラネタリウム


<前回のあらすじ>

 星空泥棒の容疑で王都に囚われていたルナと葵星。

 魔法を駆使して、牢屋で二人はいつも通りアニメを見ていた。

 そして、朝。

 生まれて始めて、本物のお姫様と出会った。

 名前を、イチゴ・ジェラートという。

 通称、イチゴ姫だ。


☆彡


 さて、緊張感が身体中を駆け抜けた。

 そこはいわゆる王座の間。

 縦列した側仕えの視線を浴びながら、長く瀟洒なレッドカーペットを渡る。

 辿り着いた玉座は、さらに段差の上に君臨する。

 葵星は、反射的に膝まづいた。

 そこにおられる方こそが、この国のお姫様だった。


「私たちの星空を盗んだのはあなた達なんでしょ?」

 鮮やかなブロンズヘアーを赤いリボンで結んだお姫様。

 息を呑むほどの美しさを思わせたが、どこか親しみやすさを覚えてしまう。

 美しい、というよりも可愛い、の方が合っている。

 アイドル顔負けの可愛さのせいで、ドレスが衣装に見えてしまう。

 彼女が纏うのは、神秘的なオーラではなく、スイッチが入った時にだけ見せる絶対的なオーラ。

 そのまま、踊り出してしまってもおかしくない。


「ねぇ、どうなの?」


 スイッチが入っていないのであろう今の彼女の話し方には、どこか子供っぽさがある。

 盗んだものを返してよ。そしたら釈放してあげるから、と言わんばかりの嘘の無さが感じられる。

 葵星は、あらゆる意味で息を呑んだ。


「失礼ながら質問をさせてください。星空を盗むとは、どういったことでしょうか? この世界には、星空なんてもう無い筈じゃ……」

「最後の星空を、蓄えていたんだよ」

「一体、何のために……?」

「それはほら、あれだよ。非常時の蓄えってやつ」


 イチゴ姫は誤魔化した説明をしていたが、葵星にはそこに付け入る余裕を持っていなかった。


「あの……、私たちはプラネタリウム上映をしただけでして……」

「ぷらねたりうむ……? やっぱり! 星空を盗んだんじゃない!」

「いえ、違います! 天に星空を映すだけです! つまりは偽物なんです!」

「ふぅん、じゃあ映して見せてよ!」

「えっとぉ、今はまだ上映時間じゃなくてでして……」

「うだうだ言ってると死刑にしちゃうよっ」

「どうかご勘弁を」


 一向に話しのペースをつかめなかった。

 ……なんだろうこの感じ。

 仕事の話をしようと畏まっていたら、単刀直入にフランクに返されたような心地。

 社会人として培った礼儀作法が邪魔をする相手。

 だとしたら、ここは葵星の出番ではない。


「星空は、誰のものでもないんだけど」


 物怖じしない少女が異議を唱えた。


「可愛い子ね。”ツキノコ”ちゃん」

「タツノコみたいな言い方だね」


 ルナは一度も頭を下げず、ずっとお姫様を見据えていた。 


「あなたがイチゴのお姫様、なんだよね」

「それだと果物の妖精みたいな言い方ね。私のことも知らないなんて、びっくりだよ」


 イチゴ姫は、プクっと頬を膨らませる。

 おそらく彼女は、「本当は私のことを知ってるくせに、印象に残ろうとして逆張り発言してるんでしょ」とでも思っているに違いない。トップアイドルならそう思うのが自然だ。


「知らないよ! 私たちは星見山で暮らしてたんだから」

「逞しいのね。でも、納税はしないといけないのよ」

「収入ななんてないもん」

「あら、そう」


 独特のテンポで二人の会話が進む。

 おかげで、事態の緊迫感や事の重大さが読み取れず、葵星は一人ひざまづいているのが辛かった。


「何にせよ、星空を返してくれたら許してあげるっ」

「許すも何も、盗んでいないもん」

「しらばっくれるつもり? 反省しないと、返してあげないよ?」


 イチゴ姫が指を鳴らすと、側仕えの女官が何かを持ってきた。

 星柄のリュックを、イチゴ姫はデリカシーに漁る。

 飛び出そうとするルナは槍の柄に阻まれた。


「私のリュック!」

「マジックバッグっていうの? 中身はどうなってるのかなぁ? へぇ、おうちが入ってるんだぁ」

「返してよ」

「お互い様だよねっ」


 イチゴ姫は手をつっこんで中を漁る。

 マジックバッグは奥深く、肘まで腕を入れて本格的に物色している。


「いいもの発見〜」


 取り出されたのは、球体の”彼女”だった。


「何これ、綺麗だねぇ」

「返してよ!」

「返せ!!」


 結局はルナよりも大きく叫んだのが葵星だった。

 大人の男は大声を出すもんじゃないなと、イチゴ姫を見て思った。

 意気揚々としていたお姫様から、年相応に怯えられてしまうのは悪い気分だ。

 葵星は口を抑え、再び膝まづいた。


「だ・か・ら!」


 イチゴ姫は腰に手をつき、諭すように言う。


「返してほしかったら、盗ったものを返してって言ってるでしょっ」

「星空なんて盗める訳ないじゃん」

「何すっとぼけてるの? それを出来るのが、”プラネタリウム”なんでしょ?」

「……プラネタリウムだから、何なの?」

「驚いたよぉ? 現存する”プラネタリウム”は私たちが所持しているので最後だと思ってたから。一体どこで手に入れたの?」


 お姫様の口ぶりからは、甚大なる過大評価が感じられる。

 まるで国宝でも扱うような言い方。

 星空を盗むという発想も、空想ではないかのようだ。


「知らないよ。私はプラネタリウムで生まれたんだから」

「え!?」


 と、誰よりも先に声を上げたのは葵星だった。


「月じゃなかったの?」

「月のプラネタリウムで生まれたんだよ」

「その話、詳しく……」

「ちょっとぉ!」


 つまらなくなったイチゴ姫が足を鳴らした。


「そっちで勝手に盛り上がらないで! 大体、プラネタリウムっていうのは場所を指したり兵器を指したり、ややこしいんだよね」

「……兵器?」


 ルナが聞く。


「星空収集兵器。それがプラネタリウムでしょ」

「何を、言っているの……?」

「そっちこそ何を言っているんだよ、こんな危ないもの持ち歩いちゃってさ! 大罪だからねっ」

「違うよ。プラネタリウムは、星空を映すだけで……」

「はいはい。国家反逆罪」

「待ってよ。この国のプラネタリウムは、何に使われているの?」

「その名の通り、星空収集です」

「なんでそんなことを」

「世界中の運命を支配するためだよ」


 イチゴ姫は空をくしゃっと掴んだ。


「何、それ」

「我が国に伝わる占星術。人は星に運命を支配されているのだから、星を独占してしまえば世界中の人間を支配できてしまうのよ」


 ルナの目が遠くなっていくように見えた。

 葵星はルナの背中を支えて、代わりに尋ねる。


「それで、在宅の街(リモート・タウン)の人たちが、運命って言葉を当たり前に使っていたんですね」

「勘違いしないでよ。その方が、世界平和を維持しやすいんだよ。戦争勝利国としての務めなんだから」

「職業も、結婚相手も、国が決めていたんですか」

「決まってた方が生きやすいじゃん」

「そっか、結婚も、相手が決まってた方が、嬉しいかもですね」

「それ、本気で言ってるの?」


 イチゴ姫が突然身を乗りだした。

 むしろ賛同した意見をしたつもりだったのだが。


「……こほん。先代が計算し尽くした最大幸福値があるんだよ。言っとくけど、世界のために個人を犠牲にするようなことなんてしてないからね。皆が運命の通りに生きてくれれば、ステラの幸福値が最大になるようになってるんだから。だから、困るんだよね。あなたたちみたいな、外の世界の存在は」

「そんなことも分かるんですね」

「だって、運命と無関係なんだもの」

「もしかして、星空がないと大変なことになるのでは?」

「戦争だって始まっちゃうかもね」


 大変な事実を知らされたのだが、当のお姫様が柔らかなスタンスなので、イマイチ焦ることができない、


「この国に星空を返したら、その機械……、ピコも返してくれるんですよね?」

「もちろん、最初からそう言ってるよ」

「……分かりました。私たちが盗んだ訳ではないので、探させていただけませんか?」

「返してくれるならなんでもいいよ。猶予は三日間ね。結婚式があるんだから」

「お姫様の、ですか?」

「星空の下での結婚式、憧れてたんだよね」


 うっとりと手を組み、お姫様は夢を見る少女になる。


「星空の下で愛を誓ったら、本物の真実の愛を手に入れられそうじゃない」

「おじさんも、憧れます……」

「そうでしょ!? この世で唯一の”魔法”なんだよ」


 ルナの肩がずっと震えていることが、葵星は心配だった。

 小さな少女が、国や大人のわがままに付き合うのはトラウマものの多大なストレスだ。


「すみません、リュックの中に財布が入っているので、必需品だけでも持たせてもらえないですか?」

「ダメ! 兵器の持ち主に所持品を返せる訳ないでしょ」

「ですが、五日間も活動することすら難しい状況に」

「それなら安心してっ。宿も食事もタダにしてあげるからっ」


 側仕えから二人分の腕時計を手渡された。

 時間を示すだけでなく多彩な機能を内蔵した、今時のスマートウォッチだ。


「この街でならタッチ決済で何でも払えるから」

「えっとぉ、そのお金はどこから」

「星空を返してくれたら全部チャラ、失敗したらルナちゃんの持ち物を押収。分かりやすいでしょっ」

「……はは」


 いい人なんだか悪い人なんだか。

 無茶な注文だがどこか気持ちの良い信念を感じてしまうお姫様だった。


☆彡

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