14話 星空の魔法〜フリップ&フロップ〜
<登場人物>
・ルナ:月から来た魔法使い。月年齢で十歳
・葵星:異世界転移した在宅ぼっち。地球年齢で三十歳+α
・未心:初めて出会ったステラの住人。ステラ年齢で十七歳
・ピコ:持ち運びも可能な球体の投影機
<前回のあらすじ>
ルナの魔法と葵星の才能で、天に本物の星空をもたらした。
この魔法の正体は・・・。
<星空の魔法>
それは、星空を創り出す魔法なんかじゃなかった。
それは、星空を投影する魔法なんかでもなかった。
☆彡
夜の帷が降りた在宅の街に現れた、満天の星空。
数えることなど出来ないほどの無数の星。
奇跡と見間違えるような光景が広がる。
けれどそれは、かつてのステラでは当然のように見上げることのできた景色だった。
「ルナちゃん、上演してくれる?」
未心はマイクをルナに手渡した。
子供たちは舞台から降りて客席に座り、入れ替わりでルナが登壇する。
星空の語り部が、皆の前に立つ。
星空は、語り部によって物語が縁取られる。
「在宅の街の皆さん、こんばんは」
ルナの声が、街中に届く。
葵星の<文脈を無視する才能>が、ルナの声を街中の人に聞こえるようにした。
「私はルナ。十歳。マイブームは、太鼓の音です」
ドドン、と太鼓の音が鳴った。
「すっかり夜になりましたね。外を出歩けないほどの暗闇。それが日常でした。だけど日常は、いつまでも続くとは約束されていないものです」
希望をものにした観客の瞳は輝いている。
「今を当たり前だと思う心を、一度、捨ててみませんか。真っ暗な夜が続く日常は、もうここにはないですから」
ある者は、今日が祝日だと知っていたが、納期に追われて休みなんて取りようがなかった。
ある者は、幸せな未来を掴むために余暇の全てを勉強に捧げていた。
ある者は、考えることを放棄していた。
今日がいつも、昨日と同じだったから。
「闇の中に星が浮かぶように、心の中には大切な願い星が輝いているはずです。その光は、今日もあなたが進むべき道へ、引っ張ってくれています」
ある者は、真夜中に外に出てみたことがあった。
ある者は、初恋の相手を毎日のように夢に見ていた。
ある者は、後悔を認めたくなくて、今だけを見つめていた。
皆、プラネタリウムが気になっていた。
「星空を見ることは、命ある者にとって最大の贅沢です。今日、星空を見られないような生き方が運命で、いいんですか?」
ルナはマイクを外した。
広場にいる人たちは、あとはただじっと、星空を眺めるだけだ。
会いたい誰かのことを考えながら。
静寂は徐々に足音でかき消された。
けれどそれは、嬉しい音だった。
「星空へようこそ。もしかしたら、その一歩を踏み出しただけで、願いが叶う人もいるかもしれませんね」
ある父親は、一人息子に抱擁した。長らく忘れていた親子のふれあいだった。
ある女性は、旦那の手を取った。言葉はなくとも、二人は愛を深めた。
ある少年は、おちゃらけずに月の子にプロポーズをした。また断られたけど、ちゃんと伝えられたから、これで終わりにした。
「すごいですね、これ」
未心は、葵星に話しかけた。
「本当に、星空を見られる日が来るなんて思わなかった」
「星空が欲しいって、今でも思うの?」
「意地悪ですね。当たり前じゃないですか。いつか、ニコラにも見せてあげなきゃいけないんだから」
「悪いことだとは言わないけど、街の皆はどうなるの?」
星空を見上げて未来を変えようと決意する者がいる。
変えられない今を再認識して、少しでも変えていこうと決心する者がいる。
星空の下で、あらゆる人が運命に抗う力を養っていた。
「元に戻ればいい」
未心は言い捨てた。
「本気でそう思ってるの?」
「この星空を見たら、他人のことなんてどうでもよくなりません?」
「……前にも言ったけど、星空を上げることなんて出来ないからね。物理的に」
「ステラはそれが出来ちゃうんですよ」
遠くで音がした。
ウーウー、っと喧騒的な音がだんだん近づいてくる。
パトカーのような車が2台、広場にやってきた。
停車しても頭のパトランプは赤く光り、それが星空の綺麗さを半減させた。
奇跡の一夜を無視した粗野なよそ者だ。
「これは何事だ」
警察、だろうか。
恰幅の良い男が腰に銃を携えている。
噂に聞く、王都の存在なのだろう。
彼らの威圧に、街の人たちは口を閉ざした。
町長が一歩前に出る。
「セレスティア王都の皆様、足元が悪い中よくぞお越しくださいました。一体どのようなご用で?」
「何故星空があるのかと聞いている」
警察は当然のように星空を知ってた。
「私たち最近知ったばかりでして詳しいことは分からず。こちらの方々が広めてくれたのです」
「ふむ、IDを見せてもらうか」
下手に匿ってもらう状況ではなかったが、身を売られた気分になった。
ルナを庇うようにして、葵星が聞く。
「IDって、パスポートのようなものですか?」
「なんでもいい。個人情報が入っている端末を出してくれ」
「えっと、そういったものは持っていないです。どこかで買えるんですか?」
「まあいい。どうせ連行するつもりだったのだから、王都まで一緒に来てもらおうか」
「そんな、どうして……」
「星空泥棒の容疑がかかっているからだ」
「な……」
「なんだよ、それ!」
ルナが抗議した。
クマに立ち向かう少女のように、勝ち目のない光景だった。
「星空は盗むうようなものじゃないでしょ。そんなの、盗んだことのある人たちの言い方じゃないか!」
「手荒なことはしたくない。大人しく捕まってもらおうか」
冷静に魔法を使えば逃げられたかもしれない。
だが、武力を保持した大人に、少女とおじさんは物怖じしている間に捕まった。
手錠をかけられ、車に詰め込まれる。
「なんだよ、この星空は、誰のものでもないんだから」
「弁明は、姫の前でしてくれないと意味ないぞ」
「……お姫様?」
そうして、少女とおじさんは王都へと連れていかれた。
ルナも、葵星も、もちろん納得などしていなかった。
この星空はステラの星空ではない。
<星空の魔法>
それは、葵星の元いた世界から、星空を持ってくる魔法だったのだから。
☆彡
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ここで第一章が完了です。
次の章で、描きたい物語があります。
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