人の本質
ー空母加賀艦橋内ー
「敵機直上!急降下!」
防空指揮所から悲鳴に近い報告が上がる。
その場にいる将校全員の視線が対空砲火を搔い潜る敵機に集中する。
対空砲火は黒煙と火花、耳を貫く破裂音を纏い空へと昇る。去れど敵機は淡々と刻一刻と接近する。
誰も言葉は発さず、艦橋内は重苦しい空気に飲み込まれている。誰しもが堕ちろと念じている。
しかし、遂に敵機は格弾曹を開き投下体制に入る。誰もが息を飲み、目を見開く。
対空砲火の音、甲板上の機銃手の声は存在すれど耳には入らない。
敵機が500キロ爆弾を投下する。世界が、一秒が遅く、長い。
羽虫のような嫌な音が過ぎ去っていく。
ー刹那ー
艦右舷後方から閃光が走る。額から冷たい汗が流れ首筋に向かう。
「被弾!艦右舷後方一、、、、、、」
報告が上がる最中、艦前方が光り窓ガラスが割れる。
「、、、、、、っく」
艦橋内にガラス片と血潮が舞う。
艦前方、艦中央左舷着弾。
ー航空機用燃料引火ー
視界が白く、耳遠く、、、、、、
「、、、、、、佐、、、、、、少佐、、、、、、少佐殿!」
声がする、
意識は朦朧とし、節々は痛む。
「、、、、、、あぁ」
声を絞り出したがかすれた声しか出ない。
「少佐殿!目を覚ましてください!萩風です!!!」
「、、、、、、はぎ、か、ぜ、、、、、、」
漬物石のような瞼を持ち上げ、揺れてぼやける視界を得る。
「そうです。萩風、舞風が救助に来ました!!1」
水兵の歓喜の声が耳に入る。
救助、か。
「かが、は、、、、、、どうした、、、、、、」
歓喜の声は沈みゆく。
「被弾四発、航空機燃料引火により艦橋損壊。艦長以下多数戦死につき戦術長が代替指揮中。」
違う。
違う。そうじゃない。
「加賀は、どうした?」
水兵の顔が深く、暗く、黒くなる。
「被弾四発、大破炎上中。であります。」
「そうか、、、、、、」
「はい、、、、、、」
立ち上がれないほど黒く、悲しい匂いがする。
「ここにいる皆は、生きているか。」
何故かこのような言葉が漏れた。
すすり泣くような嗚咽のような音が広がる。
あぁ、本音が漏れなくてよかった、、、、、、
そう思う。もし漏れていたら、私はこの場を収集できない。
ードンー
鈍重な衝撃音が響く。
体が軽くなったような感じがする。
空気が下から上に体を包んでいっては過ぎていく。
真上には白く丸い光が煌々と存在する。しかしその前には黒煙と火花が踊っている。
視界には白い光、黒煙、そして手を伸ばす人影が染み込む。
次第に、去れど直ぐに白い光以外は小さくなる。
ーパシャリー
私は水泡に帰した。