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エイミーと歌の特訓 1

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 両親に今日から毎日城に通って歌の特訓をするから帰りが遅くなると言うと、何とも微妙な顔をされた。

 そして口々に「殿下にご迷惑をかけないように。それからくれぐれも大声で歌わないように」と言われてエイミーはよくわからず首を傾げたが、両親から毎日城へ通う許可は下りたのでよしとする。


(殿下、殿下、今日から殿下とお城デート~)


 いつの間にか「歌の特訓」が「お城デート」へ脳内翻訳されて、エイミーは学園の正門から玄関へと続く道をうきうきとスキップしていた。

 そして学園の玄関前に到着したエイミーは、何かの気配を察知して、素早く右によけた。


 べしゃっ!


 一秒前までエイミーがいた場所に、濡れた雑巾が降って来た。


(今日は雑巾なのね!)


 毎回違うものが降ってくるので、最近ではエイミーは次は何が降ってくるのかしらと楽しみになっていたりする。

 もちろんそんなことを言えばシンシアが激怒するだろうから口には出さないが。

 犯人の目的はよくわからないが、ずいぶんと発想の豊かな人だと思うのだ。だって一度として同じものが降ってきたためしがないのである。きっと、毎日次は何を落とそうかと考えているに違いない。愉快な犯人だ。

 濡れた雑巾をこのままにして置くと邪魔になるだろうからとエイミーが拾い上げようとすると、その前に慌てたように教師の一人がかけてきた。


「エイミー・カニング嬢! 片づけは先生がしますから結構ですよ!」


 どうやらシンシアが先生に告げ口したせいで、エイミーの身の回りに注意を払ってくれているらしい。


(こうなるから教えたくなかったのよねー。先生たちの仕事を増やしちゃったわ)


 エイミーは生徒だが、王太子の婚約者だ。それでなくとも教師たちはエイミーに何かあってはいけないとやたらと気を遣うのに、頻繁に空から妙なものが降ってくるとわかれば彼らが大慌てをするのは目に見えていた。だから嫌だったのだ。

 ここでエイミーが意地になって片づけをしようとすると逆に迷惑をかけるだろう。


 エイミーは「ありがとうございます」と素直に礼を言って、下駄箱で靴を履き替えた。

 そして、自分の教室に入る前に隣の教室を確認してみる。残念ながらライオネルはまだ登校していないようだ。

 エイミーはがっかりして自分の教室に入ると、すでに到着していたシンシアが「今日は大丈夫だった?」と訊ねてきた。


「今日は雑巾が降って来たわ!」

「……それなのになんで嬉しそうなわけ」

「ふふふ、今日は殿下とお城デートなの!」

「お城デート?」

「詳しいことは秘密なんだけど、殿下と放課後にも会えるのよ! 嬉しいっ」

「つまり殿下はエイミーの気持ちに答えてくれる気になったってことかしら?」

「そう思う⁉ 実はわたしもちょっとそんな気がしたの……!」


 ずっと「来るな」とか「巣に帰れ」とか言い続けていたライオネルが、自ら城に誘ったのだ。これは大躍進である。


「よかったじゃない」

「でしょう⁉ ああっ、早く放課後にならないかしら?」

「まだ一限目もはじまっていないのに何を言うのかしら。それにしても、あんたって本当に殿下が好きね」

「大好きよ!」

「ねえ、ちょっと気になってたんだけど、殿下の婚約者候補ってあんたのほかに四人いたんでしょ? その四人が誰か知ってる?」

「知らないわ」


 エイミーは誰が婚約者候補に上がっていたのかまったく興味がなかったため、わざわざそんなこと訊ねたことはない。


「候補だった人たちがどうかしたの?」

「いえね……ちなみさ、もし、もしもよ? もしもなんだけど、あんたと殿下の婚約が解消されたら、殿下の次の婚約者は昔の婚約者候補の中から選ばれるのかしら?」

「婚約は解消しないわ」

「だからもしもの話だってば」


 もしもだと言われても想像するのも嫌なエイミーはむっと口を曲げたが、シンシアがやたらと気にしているので「そうねえ」と考え込んだ。


「そうかもしれないわね。だって王族の、しかも王太子の婚約者ですもの。いろいろ審査基準があるのよ」

「……そう」


 エイミーの答えに、シンシアは難しい顔で黙り込んだ。

 エイミーは首をひねったが、そのときカーンと予令の鐘が鳴って、慌ててカバンから教科書を取り出す。一限目の数学教師は、はじまる時間よりいつも早くるのだ。


 シンシアは予令が鳴った後も難しい顔をして考え続けていたが、授業の準備をはじめたエイミーは気がつかなかった。




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