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こういうのは兄の役目だろ

「佑樹はこれから、俺たちと一緒に富の反逆者たちを捕まえに行く」

「うん」

「……前にさ、模倣犯を殺すべきだったって佑樹は言ったな」


 秀太は佑樹に携帯電話を渡した。画面には戸籍謄本の写しが映っている。


「俺たちと一緒に行動するなら、ちゃんとわかっていて欲しいんだ。ミライと一緒に、佑樹の戸籍も作った。佑樹は、俺たちの家族になったし――何より、日本国民なんだ」


 佑樹は首を傾げた。実感が湧かない。佑樹はまだ、北海道の土を踏んだこともない。


「日本は法治国家だ。俺たちは、一市民を超えた活動をしてる。本当ならダメなことだ」


 秀太ができるだけ平易な言葉を選んでいるのが分かる。佑樹が理解できるように、細心の注意を払っていると実感する。


「俺たちは俺たちが正しいことをしているとは思わない。俺たちが佑樹を洗脳していないと断定できない。自分たちにとって都合のいいように佑樹の思想を誘導していないと確信できない」


 秀太がなぜか泣き出しそうに見えて、佑樹は焦って梓を探す。梓の影がドアの向こうに見えた。双子の総意なのだ、と直ぐにわかった。


「だから、その、えっと、そうだな」


 秀太は佑樹の前で携帯電話を操作して、文字を打ち込めるようにした。


「ここに、善の反逆者って入れて。いろんな動画とか、文章が出てくる。それで、自分なりに考えをまとめて。その上で、俺たちの話を聞いて。そんでスラムを見に行こう」


 佑樹に対して誠実であろうと、双子が配慮していることは流石に分かった。


「じゃあ、俺、向こうで梓といるわ」


 佑樹はドアが閉められる音を背中で聞きながら、携帯電話に指を這わせた。


「ぜ・ん・の・は・ん・ぎゃ・く・しゃ」


 辿々しく、けれど確実に一文字一文字を入力する。確定ボタンを押すと、一気に動画が溢れて来た。


「…………」


 佑樹は、その中の一つに触れた。画面が変わる。それは、善の反逆者の紹介記事だった。



***


 2069年 

 15歳。中高一貫校×××高校一年時にクラスメイト23名を爆殺。2名の生き残りを残し、逃亡を企てることなく捕まる。


 16歳。第一審にてあまりの残忍性から未成年にして死刑判決が下る。その後控訴することなく獄中へ。後に、国の反逆者△△△△による刑務所へのカーニバル襲撃を手引きする。


 以降、記録なし。


 日本有数の名家出身、学業成績は非常に優秀、運動神経も良く、本人の希望で古武術を中学から始めるも、年少から始めていた経験者を次々と追い抜く。友人にも恵まれ、家族仲も良く、事件直後は「彼がそんなことをするはずがない」と主張するものが後を絶たなかった。


 犯行の動機を、彼は面白いことをしたかったから、と述べている。


***



 嫌な予感がした。

 彼が殺したクラスメイトの内、生き残りが2名であることに引っかかった。


 同時に分からなくなった。

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 どうして秀太と梓は彼のような存在を殺そうとしないのか。理由なく人を殺すような人間は人間じゃない。人間と呼べない。人を殺す奴は総じて悪だが、奴は輪をかけて醜悪だ。


「そこに、理由があるとするのなら」


 佑樹は梓と秀太がいる部屋に繋がるドアを開けた。


「みた! 考え纏まった!」


 双子は静かにコーヒーを飲んでいた。ミルクも砂糖も入っていない、ブラックコーヒー。双子は佑樹に目を合わせない。


「そうか。じゃあ話をしよう」

「私が話そうか?」

「いや、こういうのは兄の役目だろ」

「たかが数秒なのに?」

「たかが数秒でもだ」


 そうして彼は彼らの原点を、彼らの物語を、彼らの絶望を話し始めた。決して大きな声ではないが――それでいて、よく響く声で。


 佑樹は聞きたくないような気もした。梓は無表情でコーヒーを飲んだ。







「俺と梓は、後一人、気のいい男と仲良くしてたんだ。裕太って言うんだ。スッゲーいい奴。中等部からずっと仲良くて、いつも三人一緒だった――――



『何してるんだ? 三人とも』


 ××××は、時折三人に話しかけ、そんな××××に三人も和かに対応していた。××××は生徒会長をしていた。生徒から信頼され、生徒から愛されていた。真面目すぎるわけでもなく、器用に立ち回る彼を嫌いな奴はいなかった。いたとしても、大方嫉妬。露骨に態度に出す人間はいなかった。


『ああ、先に移動教室行こうかなって。昼休みは人いないところのがゆっくりできるし』

『確かに。なぁ悪い、ちょっとノート運ぶの手伝って欲しくってさ。一旦教室戻れない?』

『おお、わかった』


 ××××と三人で教室に戻った。断る理由はなかった。××××が後ろで三人が前。教室に入った直後、三人は倒れた。倒れる瞬間、ガスマスクをつけた××××を見た気がした。


『グラウンドと校門にしか監視カメラがないなんて、舐めプにもほどがあるよなぁ』


 秀太が目を覚ました時、××××の第一声はそれだった。足の骨を折られた上に椅子に括り付けられた秀太は、梓が同じ状況下で横にいることがわかった。


『さて、秀太、梓』


 二人の前には大きな画面があった。上には裕太が一人教室で縛られている。下の画面には、他のクラスメイト22名が縛られていた。


『ここに、爆弾の起爆スイッチがあります』


 秀太は回らない頭で××××が掲げた二つのスイッチを見ていた。梓は半狂乱状態。秀太は茫然自失。そんな二人を否応なく現実の引き戻す言葉を××××は言った。


『選んでよ、一番の仲良しを殺す? それともその他のクラスメイトを殺す?』


 悪魔がいた。

 ××××は今までの彼の笑みが作り笑いでしかなかったとわかるほど、愉悦に酔った笑みを浮かべていた。楽しくて楽しくて仕方がないようだった。


『いやだ、いやだ、死にたくない!!』

『梓! 秀太! 助けて!』

『うぁあああああああああああ』


 画面の先にも声は届いているようだった。


『タイムリミットは昼休みが終わる10分前まで』


 後5分。猶予は少ない。


『存分に話し合いな。音声を切りたかったら操作してあげる。罪悪感なく殺せるよ。大丈夫。僕は二人がどんな選択をしても、その選択を尊重しよう』


 彼はそうして、一人優雅に足を組んで椅子に腰掛けた。


『さぁ、どうする?』

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