第2章 第4話 おうち訪問
「わー! ここがおもうとさんの家ですかー!」
放課後。学校から歩いて15分ほどの自宅に由比ヶ浜さんを案内する。
「やっぱりですけど親御さん結構お金持ちですよね……あ、失礼しました」
「いやいいよ」
俺の両親が亡くなっていることを知っている由比ヶ浜さんの謝罪を軽く受け入れる。周囲の家に比べてもそれなりに広いのは事実だし、そこまで引きずってもいない。むしろ気にされる方がなんか面倒だ。
「ただいまー」
「おじゃまします!」
俺が先導して家に入る。だがいつもすぐに出迎えてくれる青葉が出てきてくれない。さっき連絡とって家にいるのは間違いないんだけど……。
「よ、ようこそぉぉ……!」
とりあえず靴を脱いでいると、しばらくして制服姿の青葉が玄関にやってきた。やたらぎこちない笑顔で。
「きゃー! 生青葉ちゃん! ことここと由比ヶ浜琴です! ことこまかー!」
「こ……ことこまかぁ……!」
興奮した様子で握手を求める由比ヶ浜さんと、震える手でそれに応える青葉。……たぶん俺も青葉が男友だち連れてきたらこうなるだろうな……心では応援したいけど、絶対身体がついてきてくれない。青葉に彼氏ができるなんて耐えられない。
「さっそくなんですけど先輩! おもうとさんの自宅紹介動画撮っていいですか!?」
「普通に嫌だけど……」
「ちゃんと編集してダメなとこカットするんで安心してください! あ、おもうとさんの方では対談動画でいいですか?」
「いやめんど……」
「コラボってのはこういうものなんです! 協力してくれるって言いましたよね!? はいこれカメラ!」
「えぇ……」
由比ヶ浜さんがどれだけのアクセラーかはいまだにわからないが、この様子を見るにかなりガチガチにやっているのだろう。動画メインの配信者。俺も何人かフォローしている配信者はいるし何となくはわかるが、いざ自分でやるとなるとなんだかめんどくさい。やっぱり根本的に向いてないんだろうな……。
「青葉はいい? 嫌なら追い出すけど」
「いやなわけないよ! おにぃのためだもん!」
「じゃあそういうことで! あ、家入るとこからやらせてくださいね! ちゃんと外の風景わからないように編集するんで!」
言うだけ言って外に出ていく由比ヶ浜さん。もっと軽いものだと思ってたんだけどな……まぁ学校での危機を教えてくれるというメリットを考えたら協力しない手はない。ちゃんとがんばろう。
「青葉、大丈夫?」
「うん……! あおはがんばるから……! おにぃのいいところいっぱい伝えるから……!」
そして青葉は青葉で気を張っている。気持ちがわかるからこそ申し訳ない。青葉が男連れてきたら同じようにできるだろうか……あんまり自信がない。
「あ、その前になんだけどことこさんの家柄ってどうなってるの? ちゃんとしたおうち? 職業とか介護の必要とか社会的ステータスとか……あとちゃんと勉強できる人だよね? 見た目だけで騙されてないよね?」
「さっきも伝えたけどそういうのじゃないから。付き合うつもりはお互いないから安心していいよ」
「でもこういう機会じゃないとおにぃ彼女作ろうとしないでしょ……? おにぃには幸せになってほしいの。あおはのことなんて気にしないで……彼女作って、結婚して、家族を作って……。そういう普通の幸せをおにぃには……!」
「俺も青葉と同じだよ。だから大丈夫だ」
お互いがお互いの幸せを願いすぎている。だから気にしすぎているが、心配をかけたくないのもお互い様。だからこういうのは不毛。何を言おうがしようが、一番大切な存在だけは変わらないのだから。
「あと一応聞いておくけど……客間は入れないようにしてるよな?」
「うん……大丈夫。あそこだけは、たとえおにぃのお嫁さんになるかもしれない人でも、見せたくない。地下室は……」
「あそこも見せるつもりはないよ。少なくとも俺は……絶対に」
「そっか……おにぃがそれでいいなら、いいと思う」
よし、意思の統一はできた。後は受け入れるだけ。
「じゃあ由比ヶ浜さん呼ぶから。お互いがんばろうな」
「うん……がんばろうね!」
こうして動画撮影が始まった。




