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第1章 第3話 嘘

「ただいまー!」

「おかえりー!」



 新学期特有の午前授業後即帰宅した俺は、先に帰ってきていた青葉と抱き合う。この一瞬のために生きている……幸せすぎる……!



「学校大丈夫だった? ごめんな、俺が青葉のことネットに載せたせいで」

「あおはは大丈夫だよ。なんにせよ誰とも仲良くする気ないし」



 手洗いうがいを済ませて十年物のソファに腰掛けると、青葉が膝の上に乗ってくる。それを左腕で抱きしめて固定するといつもの家スタイル。この時間が一番落ち着くと言っても過言じゃない。



「おにぃこそ大丈夫だった? 人気なのはおにぃじゃん!」

「俺は何もないよ。一人にはバレたけどそれ以外はいつも通りだ」


「……へぇ。その人女の子?」

「そうだけど俺のこといじ……見下してくる奴だし。ほらこいつ」



 記憶を頼りに持本のアカウントにまで到達し、青葉に見せる。



「えーと……『もっちー』……? 持本だからもっちーか」

「あ、その人知ってる! クラスの人が話してた」


「ふーん、人気なんだ」

「学生でも買えるコスメとか紹介してるんだって。あおはもよくわからないんだけど」



 なるほど……30万フォロワーはすごいのか。そりゃ500万は話題になるわな……。



「あ、生放送してるよ」

「ほんとだ制服着てる。身バレしてもいいのかな?」


「これくらい有名ならそれで食べていけるだろうしいいんじゃない?」

「そういうもんか。えーと、タイトルは『襲われました』……!? やばくないか……!?」



 そのタイトルの危ない雰囲気に、慌てて制服姿の持本が映ったサムネイルを押す。するとしばらくして生放送がスマホに表示される。



「うん、そうなの! ひどいでしょ!?」



 途中からだから話の内容は掴めないが、悲痛そうな表情と語り方からしてコメント返ししているのだろう。一体誰が持本に非道なことをしたんだ。別に仲良くないし嫌いだが、そんなことをされてざまぁみろと思えるほど薄情ではない。一体誰が犯人なんだ。もし協力できることがあるなら俺も……。



「おもうとマジ最低! あいつめちゃくちゃ強引に迫ってきたの!」

「……は?」



 だが持本が口にした犯人の名前は、俺のアカウント名だった。



「あいつと同じクラスになったんだけどさ、人気を盾にして色んな女の子に声かけてんだよね。去年度まではただの陰キャだったのに調子乗って。みんなどう思う? フォロー外した方がいいよ」



 しばらく聞いていたが、そこで語られていたのはまったく存在しない俺の悪評の流布。しかもタイトルには襲われたと書いてあるのに、ただ迫られただけの話らしい。これがあれか……タイトル詐欺ってやつか。



「……おにぃ、一応訊くけど……」

「するわけないだろ」

「だよね」



 腕の中に納まっている青葉の身体が震えている。それは晒されたことによる恐れからか、嘘への怒りからか。どちらにせよ、俺にできることは青葉の身体を抱きしめることだけだ。



「大丈夫だよ、全部嘘だし。嘘はいつかバレるって言うだろ?」

「でも……たぶんフォロワー減るよ……? ネットニュースにもなるかもだし……」


「いいよ別に。フォロワー数なんて減ったことにも気づかない。それにニュースになって困るのは持本の方だ。まぁ何とかなるよ」

「でもあおは……おにぃが悪く言われてるのやだ……!」


「だから大丈夫だって。俺は気にしないから」

「でも……うぅ……!」



 にしても持本……言いたい放題だな。



「そもそもあいつハナから嘘ついてるよ? 妹と二人暮らししてるとか言ってるけどさ、中高生が二人だけで暮らせるわけないじゃんね。ほんとは両親もいるに決まってるよ」



 俺の両親は10年前に殺されている。その後は親戚に引き取られた……ということになっているが、実態は全く関わっていない。正真正銘10年間二人暮らしだ。



「ていうか500万もフォロワーいたら広告収入とかすごいことになってるはずじゃん? なのに貧乏飯とかアップして同情引いてさ。ほんとに貧乏な人に申し訳なくならないのかな」



 確かに広告収入は入ってきている。だが両親の保険を食いつぶして生き長らえてきた俺たちが急に贅沢なんてできるはずもない。わずかだが親と過ごした思い出のあるこの家を出るつもりもないし、今の生活で充分満足している。



「ていうか妹妹キモいんですけど。あたしも兄貴いるけどさ、仲良いなんてありえなくない? 絶対ビジネスでやってるよね」



 俺にとって青葉は。青葉にとって俺は。残された唯一の家族だ。言葉を使う必要すらない、自分の命よりも大切な存在。ビジネスなんて、ありえない。



「……俺のことはどうでもいいけど、青葉のことを悪く言ったのは許せないな」



 生放送を閉じ、自分のアカウントを確認する。フォロワー数は着実に減ってきているし、俺たちを責めるコメントが押し寄せてきている。問題ない。



「お前の舞台で戦ってやるよ」



 持本は勘違いしている。フォロワー数にこだわるなら、俺に挑むべきではなかったんだ。俺が何かするまでもない。俺とあいつの間には、勝負にすらならないほどの差があるのだから。

ちょっと胸糞回かもしれませんごめんなさい! 次回は解決編ですのでお待ちください!

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