第1章 第2話 無意識マウント
今日から新学年。高校2年生。前のクラスではいじめられていたが、環境さえ変わってしまえば……なんて希望は、登校する前から存在しなかった。
「この学校フォロワー500万人超えのアクセラーいるらしいよ」
「知ってる! 『おもうと』でしょ? 私もフォローしてるんだけどいいよねー」
「でもその正体は誰もわからないんだって。佐藤って苗字らしいんだけど」
「佐藤じゃあ見つからないね。あーいいなー、付き合えないかなー」
登校している際に聞こえてくる新入生たちの噂話。この時期だとクラスや部活の話をするのが普通だろうに、俺の話しか聞こえてこない。
俺がアクセスを初めてから約半年。とりあえずアクセラーがアクセスでの有名人の呼び方だということや、俺のアカウント名、『俺の妹』の略称が『おもうと』になっていることはわかり始めてきた。だがそれくらい。まだアクセスを使いこなせているとは言い難いが、それでも俺のフォロワー数は500万人を突破してしまった。
この500万という数がどれだけすごいのかはわからない。日本人の95%が登録しているし複数アカウントの人もいるだろうからそれほどでもないのかもしれない。でもまぁ多少すごい程度なんだろうなと思っていたが、この反応を聞く感じちょっとやばいのかもしれない。まぁそんなのはどうでもいい。
『おにぃ、新しいクラスどう?』
俺にとってアクセスは、愛する妹青葉との連絡ツールでしかないのだから。
『結構シャッフルされたかな。青葉は?』
『こっちもそんな感じ。ドキドキがまだ止まらないよー!』
あー青葉はかわいいなー! 新しい教室に入ったけど青葉のことしか考えられない。自分の席でスマホ片手にニヤニヤするだけ。これじゃあ寝たふりしていた去年とそう変わらないが、いつでも青葉とチャットできるというのが大きすぎる。青葉だけいれば友だちなんていらない。
『あおば結構色んな人に話しかけられるんだけど、おにぃはどう?』
『俺は身バレしてないからいつも通りかな』
フォロワー数がぐんと伸びたのは春休み。それまでは身バレなど一切気にせずに使ってたから、青葉の個人情報はすぐに周知のものとなってしまった。俺自身は制服くらいしか特定されるものがなかったからそうでもないが、青葉には申し訳ないことをしてしまった。
でもそうかー……青葉が人気者かー……。彼氏とかできるのかなー……応援したいけどやっぱり嫌だな……。いやそれは俺の身勝手。青葉の幸せが俺の幸せだ。
『彼氏できたら紹介はしなくていいけど報告はしてね』
苦渋の思いで送ったメッセージ。すぐに既読がつき、返信がくる。
『彼氏なんていらないよ。おにぃより一緒にいたい人なんていないもん』
か……かわいい……かわいすぎる……! このかわいさを永遠に残しておきたい……! さっそくスクショして投稿を……!
「ちょっとそれ貸しなさい」
「あっ」
青葉のメッセージが表示されたスマホが誰かにひったくられる。慌てて取り返そうとしたが、その手はスマホまで届かなかった。
「も……持本……」
俺のスマホを奪い取ったのは、去年から同じクラスだった持本貴子。1年の時はクラス内カーストップだった女子で、それを示すかのように髪も格好も派手でキラキラしている。そしてアクセスのフォロワー数が学年でもトップクラスだったようで、よくそれで見下されていた。だから正直苦手。強く出ることができない。でもこのスマホだけは……!
「返せよ……それは妹から誕生日プレゼントでもらった大切な……!?」
「すぐ返すわよ。ただ一応確認したいだけ……一応あんたも苗字佐藤だから一応一応……!」
覚悟が一瞬で揺らぐ。持本が怖かったから。だがその怖さのタイプは、リア充に感じるそれではない。そう、たとえるなら……薬物中毒者。
「こんな陰キャがおもうとなわけがない……! こんなゴミにあたしが負けるわけがない……!」
何かに取り憑かれたような必死の形相で俺のスマホを操作する持本。その表情はやがて愕然としたものへと変わり、俺のスマホが机へと落下した。
「なんで……あんたが……あんたなんかが……!」
落下したスマホに傷がないか確認する俺の頭上から声がする。持本の屈辱と嫉妬に満ちた声が。
「……言っとくけどあんたがすごいわけじゃないんだから……あんたの妹が……!」
「なに当たり前のこと言ってんだよ」
よかった。スマホに傷はないみたいだ。後はもう、何でもいいや。
「それに俺より持本の方がアクセス長くやってるしフォロワー数多いんじゃないか? まぁ競ってないからどうでも……あ」
スマホの動作確認のためにちょっと弄っていると、持本の加工に加工された写真が載っているアカウントを見つけてしまった。フォロワー数30万人……俺の何分の何だ……? 十分の一以下は明らかとしてえーと……。
「まぁいっか。フォロワー数が全てじゃないしな。俺のやつただの趣味アカウントだし……」
とりあえず持本のことは無視してさっきのスクショを投稿しよう。やっぱりまだ慣れないな……どうやったら俺のアカウントに戻るんだろう……。
「見てなさい……! あんたなんかすぐに追い抜いてやるんだから……!」
スマホの操作に集中しすぎて持本の声なんか届いていなかったが、気づいた時には彼女の姿は消えていた。
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