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第1章 第1話 アクセス

「フォロワー1万人突破した!」

「いいね万バズ……よし!」

「最悪軽く炎上してんだけど!」



 教室の中に満ちる話題についていけなくなったのはいつ頃だろうか。学校とはまるで関係のない会話に混ざることができない。



「佐藤! 佐藤赤司(さとうあかし)! お前フォロワー何人だっけ?」



 そんな空気に耐えられず休憩時間も勉強に費やしていると、馬鹿にしたような質問が投げかけられる。どうせ答えはわかってるだろうに。



「……0人だよ。そもそもやってないからな。『アクセス』を」



 事実をそのまま伝えると、教室が爆笑の渦に包まれる。……毎度のことだが、何がおもしろいのかわからない。



「アクセスやってないとか老人かよ!」

「いや今時じいちゃんだってやってるぜ!? なんせ日本人の95%以上が登録してるんだから」

「やってないのはスマホが使えないガキくらいだろ! かわいそうでちゅねー、『赤ちゃん』。そもそもアクセスのこと知らないのかなー?」



 俺だってアクセスのことくらい知っている。ようするにSNS。昔は色々別れていたらしいが、会話や動画視聴。公共サービスまでまとめて行えるスマホアプリ。これをやっていないことは時代遅れどころか、人権すら存在しない……らしい。



「くだらない。俺たちは高校生だろ。そんな遊びに費やす暇があったら勉強を……」



 だがここでまた巻き起こる爆笑。どうやら俺の考えは一般的な常識からそれほどまでにずれているらしい。



「勉強って将来金を稼ぐためにするものだろ? だったらアクセスの方がよっぽどいいね」

「広告収入や案件。あたしなんてもう毎月10万は稼いでるし、社会人でも副業でやってる人も多い。つまりね、フォロワーが少ないってことは底辺確定ってわけ!」

「お前んち貧乏だろ? だいぶ前に両親が亡くなったとか何とかで。勉強なんかしてないでアクセスやった方がよっぽど稼げるぜ?」

「おいおいこいつにはそれも無理なんだよ。なんせスマホを買う金もねぇんだから!」



 こいつらの言っていることは全て正しいのだろう。確かに俺の家は両親が殺されて貧乏。スマホを買う金すらないし、俺が勉強で全国上位に行けているのはライバルが少ないから。アクセスこそが、新時代の生活ツール。全てが全て、正しいと思う。



「ネットじゃなくて現実を見ろよ。フォロワーが増えれば幸せなのか?」



 だから俺は捨て台詞を吐いて逃げることしかできない。現実となったネット社会という世界から。それに逃げてもいいんだ、俺は。なんせ俺には……。



「おにぃ誕生日おめでとー!」



 死ぬほどかわいい妹がいるのだから。



「ありがとう、青葉(あおは)



 帰宅早々そう言って抱き着いてくれた俺の妹、青葉の頭を撫でる。かわいい……かわいすぎる。俺にはアクセスなんかいらない。青葉だけいれば充分すぎる……。



「おにぃこれ誕生日プレゼント! スマホだよ!」

「…………」



 だがここでもまた、現実が襲い掛かってくる。



「……スマホなんて高級品いらないって言ってるだろ」

「プレゼントにケチつけるのはいけないことなんだよ? それに高校生でアクセスやってないなんて話題についていけないでしょ? ちゃんと友だちいる? いじめられてない?」

「……大丈夫だよ」



 友だちはいないしいじめられてもいるが、そんなことを唯一の家族に伝えるわけにはいかない。嘘で塗り固めたが、青葉にはバレバレなんだろうな……。



「返品しようよ。それでおいしいごはんでも食べよう。俺にスマホなんていらないって」

「無理だよこれ中古品だもん。それにスマホいらないって言うけどさ、あおば中学生でおにぃ高校生じゃん? いつでも連絡できるようにしときたいなーって」

「……確かに」



 青葉といつでも連絡できるというのは魅力的。魅力的すぎるが、連絡するにはアクセスの使用が必須。俺もついにアクセスをやる時が来たのか……。



「青葉はどんな投稿してるの?」

「あおばはねー、これ!」



 青葉が見せてきたスマホの画面に映っていたのは、『あおはのおにぃ』という名前のアカウント。なんか俺の写真ばっかり投稿している。……SNSってこんな感じだったっけ……?



「こんなの需要あるか……? ちゃんとフォロワーいる?」

「需要ないよ。ほらフォロワー0人」


「それまずいだろ……もっとちゃんとした使い方しろよ」

「これが一番ちゃんとした使い方だよ。好きなものをみんなに見てもらいたい。それがSNSでしょ? あおばの好きなものはおにぃだもん。これが一番だよ」



 そう言うと青葉は俺のスマホを操作し、俺のアカウントを作成。そして俺にスマホを渡してきた。



「これでお互いフォロワー1人! これ以上なんて必要ないでしょ?」



 ……かわいい。かわいすぎる。うちの妹かわいすぎないか……? もはや犯罪者だろ……。



 そうだ……俺のアカウントも青葉と同じにしよう。俺の好きな青葉だけで埋めるんだ。『俺の妹』というアカウントで。かわいい青葉の写真、両親がいなくても健気にがんばってくれたエピソード。そうだ、俺の貧乏飯のレシピなんかも載っけるか……もっといいレシピ知れたら青葉も喜ぶし。だとすると金がなくても楽しめる方法なんかを書いたりして……。後は青葉漫画家目指してるからイラストとかも投稿するか……。



 そんなこんなで始まった俺のアクセス人生から半年後。



「どうしてこうなった……」



 フォロワー数が500万人を突破。超人気アカウントとして他のクラスメイトとは比べ物にならないほどに、バズりにバズりまくっていた。



 そしてその人気に嫉妬したクラスメイトたちは。信じられないほどに馬鹿なことをしでかすのだった。

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