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缶コーヒー、微糖、ちょっと私味。

作者: 環月紅人

「喉乾いたね」

「お前ほんと自販機好きな?」


 私には仲のいい男の子がいる。お付き合いしているわけではないし、本当に仲が良いだけ。いつも登下校が同じで、他の人より一緒にいて、話す機会があるだけの、そう。謂わば幼馴染み。


「何買ってきて欲しい?」

「……コーラで」


 百円自販機を前にして私が足を止めると、いつものように二人で小休止とする。ぱたぱたとした歩調で私はドリンクを買いに行き、彼が待つベンチへ向かった。


「あんがと」

「いいよ?」


 彼が飲み始めたのを確認してから、私もぷしゅ、と缶を開ける。

 その苦味に、うぇえ、と私は唾液を含んで吐き戻した。

 それを悟られように、わざとらしく舌を出してリアクションを取る。


「にがぁーい……」

「……お前やっぱりまた無糖選んだろ。いい加減懲りろって」

「わざとじゃないもん。見た目の差が分かりにくいんですぅ」

「だいたい喉乾いてる時に飲むもんじゃねえしよ……」

「うるさい! はい!」

「結局こうなるのかよ」


 彼は不平不満をぶつぶつと文句垂れながら「ん」とコーヒーを受け取った。


「早く、こんどこそ加糖でもなんでも買ってきたらどうだ?」

「う、うん」


 とは言われたが私は動かず、彼が缶コーヒーを傾ける様子をじいっとじいーっと真剣に見守る。

 ドキドキする。この瞬間が一番好き。一番堪らない。ゾクゾクする。

 彼がごくりと喉を鳴らして飲む。

 〜〜〜〜〜っ、あぁあああああっ、最高。最っ高!

 嬉しい。嬉しい!


 彼が飲んだ。

 彼は飲んだのだ。私の唾液入りの、コーヒーを……!!


 とろーんとする。きゅんきゅんする。胸が締め付けられる感じで、脳のなかが熱くなってくる。蕩けそうなくらい好き。ああ、いま彼の体の中に、私の成分が。私が有って!


「……なんだよ」

「んーん?」


 彼が戸惑ったように私を見るから、私はこの想いを胸に秘める。

 彼に気がないのは知ってる。だって一度も間接キスは気にされてない。仕方ない。でもそれでいい。

 彼が気付かぬ間に彼の体を、ちょっとずつ、内側から、私が入る。彼は私を取り込んでいるのだ。

 だからこの時間が何よりも好き。


「もう間違えんなよ」

「えー、どうかなー……?」


 ニマニマとして曖昧に答える。


 ああ、今日も、

 彼のなかに一ミリリットルの私。

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― 新着の感想 ―
[一言]  面白かったです。そういうもんなのですか?乙女チックなのか変態っぽいのか、ギリギリのラインなのか。  勉強になるなあ。楽しませていただきありがとうございました
[一言] 純愛なのか狂愛なのか、絶妙なバランスを攻める主人公ですね。相手に少しずつ取り込まれることに興奮していることを、もしかしたら彼はうすうす勘付いているのかも知れないなと思いました。そんな大胆なこ…
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