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カードケースの蛇

 ――なるほど、そうか……そういうことだったのか! 1月6日の夜に、僕は愛唯の手により、その命を落とす。それは、僕が“レプリカ”だと知った愛唯に、本能イドとやらの暴走が起き、それが引き金となって、彼女は僕を、その手で殺めるのだろう。

「決して、さとりくんを騙していたわけではないんです……ただ、6日目の夕方ごろまでは卯月さんの本能イドを抑え込み、境界扉カオスゲートが呼び出された、その時に、さとりくんの自我エゴと卯月さんの本能イドによって、現実世界と境界カオスが繋がるはずでした。でも、想定外のことばかりで、一筋縄ではいかないみたいですね」

 藍里は、ループする世界の中、長い時間をかけて、この時の準備をしてきたのだろう。きっと、前回のループの中で、次が最後のループだということも、藍里から伝えられていたのかもしれない。僕と藍里は、きっと、深い絆で結ばれている、誰よりも。僕のすべてが偽りの仮面ペルソナだったとしても、藍里だけは、それが本当の僕だということを理解してくれている。唯一無二、僕の、本当の理解者。

「さて、藍里様、さとり様、残念ながら、そろそろお時間のようです。次に、ワタクシがさとり様とお会いできるのは、境界カオスに入られた時でしょう。その時を楽しみにお待ちしております、ごきげんよう――」

 ひらひらした感じの執事服を着た紳士的な真っ白なキツネみたいな、それでいてマスコットのような、なんだかよく分からない可愛らしい生き物が、僕に向かってお辞儀をしたような、そんな幻覚というか、錯覚というか、変な感覚に陥った、と思った瞬間――


 ――僕は、ハッと目を覚ます。現実世界に引き戻されたのだ。傷は……深くない? あれだけ銀太からコテンパンにぶちのめされたというのに、痛みがないだなんて。

 というか、ここはどこだろう? 天井が見える。喫茶アンリ&マユの休憩室? なんだか、藍里の顔も見える。僕の頭は、藍里の膝枕の上のようだ――マジか!?

「おはようございます、さとりくん。私とラプラスの魔さんのお話、ちゃんと届いていましたか? それと、騙していたみたいになって、本当に、ごめんなさい。どうしても、今回だけは失敗できないのです」

 いつもの、愛らしい藍里だ。僕は、この藍里を待っていた。

「ああ、うん。全部、理解した。でも、藍里、僕は、いったい? 銀太にボコられて――」

 困惑している僕は、まともな受け答えができそうもない。

「みんなでさとりくんを、喫茶アンリ&マユの休憩室まで運んでから、ヴァイスさんが白い蛇みたいな魔法を使って、さとりくんの傷を治してくれました。“カードケース“、みたいな能力でした!」

 藍里の謎のあざとさが炸裂した。それが僕にとって、心地よかった。いや、待て、“カードケース”ってなんだろう? 傷を癒せる白い蛇って“カドゥケウス“のことか? 神話で、”ケーリュケイオン”という癒しの杖に巻きついている白い双頭の蛇の名前が、“カドゥケウス”だったような。

「それ、“カドゥケウス“のことじゃないか? 藍里」

 僕は、藍里にツッコミを入れた。

「あ、多分、そうです! それです!」

 藍里は、いつも通りだ。

 僕らは、少しの間、そのまま笑い合っていた。なんだか、さっきまでの出来事が、まるで嘘のように、今の僕は心が晴れて幸せな気持ちでいっぱいだ。

 この現実だけでいい――今までのことが、全部、夢だったら、いいのに、な……。


 微笑む藍里が僕の頭を優しくなでてくれた。そして、藍里は一息ついて――

「はい! この続きは、また今度、です! そろそろ、皆さんのところに戻りましょう。卯月さんも、ミコちゃんも、雪音さんも、三ケ田さんも、ダンテさんだって、ヴァイスさんだって、みんな、みんな、さとりくんのことを心配していたのですから。さとりくんのこと、大事に思っているのは、私だけじゃない、というのを忘れないでください」

 藍里の言うとおりだ。僕は、みんなのもとへ戻らなければ。

「藍里、本当に、ありがとう」

「どういたしまして!」

 僕の言葉に、藍里は優しい微笑みを返してくれた。僕は――藍里との、いや、みんなとの、未来を守りたい。僕がまいた種、僕が刈り取らねば!

「ところで、藍里。僕、愛唯に、どんな顔をして会えばいいのだろう?」

 僕は、素朴な疑問を藍里にぶつけてみた。

「もちろん、こういう時は、“笑えばいい”のだと思います!」

「そ、そうだね……」

 藍里らしいといえば、藍里らしい答えなのだろう。笑えばいい、か。


 ――喫茶アンリ&マユ、店内。

 窓際のテーブル席にみんなが集まっている――席に座っているのは見知らぬ女性……それから、銀太、白羽 ミュウ、ミィコ。そのテーブルの周りを、他の人たちが囲むように立っている。見知らぬ女性は異能超人対策課の人だろうか? 三ケ田さんと同じような黒いスーツ姿で、髪は肩ぐらいまでしかない髪を結っている。三ケ田さんの雰囲気は、凛としていてもどことなく可愛げのある感じなのだが、この女性の冷たい目つきからはそういった甘さのようなものが一切感じられない。それと――ミィコ、いくらファンだからって、白羽 ミュウにべったりじゃないか! 僕はそれにちょっとだけショックを受けていた。

「みんな、心配かけてごめん。それと、銀太、白羽 ミュウさん、本当に――」

 僕が言いかけると同時に、僕の周りにみんなが集まってきた。

「さとり、みんな無事だったんだ。気にすんなって! それより、ヴァイスのことを白羽 ミュウなんて呼ぶと、キレるぞ、こいつは」

 銀太が僕の肩をポンポンと叩く。

「ダンテ、余計なこと言わなくていいから。私のことは、『ヴァイス』と呼んでください。白羽 ミュウは、休業中のアイドルの名前で、別人だと思っておいてください」

 白羽 ミュウ――じゃなくて、ヴァイスはそう僕に伝えた。


「サトリ! サトリ! おかえりなさい! ミコだけは、ミュウちゃんのこと、”ミュウちゃん”って呼ぶ許可をいただきました! 特別です! ミコにとっては、サトリも特別ですけど……」

 ミィコは僕の腕に抱き着きながら、そういって大喜びしている。いつも思うが、“も”は余計だぞ。そんな感じのミィコにヴァイスが微笑む。いや、ヴァイス、ミィコは僕らとそう変わらない年齢なんだぞ。

「さとりん、無事でよかった。ヴァイスがさとりんの傷、癒してくれたんだよ。もう、銀太ってば、いくらなんでもやりすぎだよ……」

「ああ、悪かったな、俺は感情に流されやすいんだよ! さとり、マジで悪かった、ごめん、やりすぎた。だけどさ、俺があれだけやらないと止められないくらい、さとりが強かったってことだ。てかさ、俺のことはダンテって呼んでくれ、マジで!」

 愛唯は僕を心配し、銀太は僕を認めてくれる。なんだか嬉しい。それが、僕の偽りの仮面ペルソナであったとしても。

「ヴァイス、本当にありがとう」

 僕はまず、白羽 ミュウに感謝の気持ちを伝えた。

「どういたしまして。何もかも、ダンテが悪いので」

「おい、ヴァイス! それは言いすぎだろ!」

 白羽 ミュウと銀太、この二人を見ていると、なんだか言いようのない殺意が沸いてくる気がする。もしかすると、藍里から見て、僕と愛唯もこんな感じだったのだろうか? とにかく、僕の殺意が増幅する前に、愛唯と銀太にも感謝の気持ちを伝えよう。

「ありがとう、愛唯、銀太……じゃなくて、ダンテ」

 僕はそう言って、二人に満面の笑みを返した。藍里に言われた通り、“笑った”のだ。藍里はその光景を見て、こっそりと僕に微笑んでくれた。

 雪音さんも、三ケ田さんも、美晴さんも、アンリさんも、マユさんも、アユミさんも、キングさんも、みんな、みんな、僕の目覚めを歓迎してくれた。みんな、心配してくれていたんだ。かといって、白夜とイオは、相変わらず何を考えているのか分からない。


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