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もう一人の僕

 ――境界カオス

「あはは、君の幼馴染はやっぱり強いね。君じゃ、勝てないわけだよ」

 “何か“が、もう一人の僕に、そして、僕に向けてそう言った。

「黙れ、黙れ、黙れ……全部、全部、お前の、お前のせいだ! お前さえ、お前さえいなければ!」

 もう一人の僕は、“何か”を責め立てる。ああ、もう、うんざりだ! 僕は、この状況にうんざりした。

「僕は、もう、うんざりだよ。こんなのは……うんざりだ」

 僕はもう、うんざりだった。だから、僕は、“何か”と、もう一人の僕に向けて、そう呟いた。

「うん、ボクも同感。壊れちゃった君たちを、みんなで修復しなくちゃ、ね」

 “何か”は、僕と、もう一人の僕に、そう告げると――

「君は、『ラプラスの魔』を知っているかい? ボクと同じ存在。君からしてみれば、世界のことわりだったり、Deusデウス exエクス machinaマキナだったりするのだろうけど」

 “何か”は、意味不明なことを口走っている。

「ラプラスの魔?」

 僕は、“何か“にそれを聞き返す。

「そう、君にとってのボクが、Deusデウス exエクス machinaマキナであるように、藍里にとってのボクが、ラプラスの魔。君と、ラプラスの魔を繋いであげるよ。さあ、ショータイムだ!」


 ――真っ暗闇。

 ここは現実世界? 僕の瞼は開かない。僕は、まだ、寝ている? 僕は、まだ、生きているのだろうか?

「――藍里様、いやはや、これは想定外でございましたね」

 なんだろう、紳士的な話し方だけど、なんだかやけに可愛らしい声にも聞こえる。

「そう、ですね。これが最終ループなのだとしたら、やはり、不測の事態はこれからも起こりうると考えるべきなのかもしれません。さとりくんの自我エゴがあまりにも早く育ちすぎてしまったせいで、卯月さんの本能イドに影響を及ぼさなければいいのですが……」

 これは、藍里の声だ。

「藍里様、申し訳ございません。さとり様が、おいでになられました」

 可愛らしい声の主が、僕が盗み聞きしていることに気付いたらしい。おそらく、この声の主がラプラスの魔、なのだろう。

「それは、本当ですか? 今回は本当に、予想外の出来事が多いですね……では――さとりくん、聞こえていますか?」

 藍里の声が脳裏に響き渡る。幾何学的楽園ジオメトリック・エデンでの“念話”みたいなものなのだろうか?

「え、藍里、これ、テレパシー?」

 僕は驚いて、藍里のその声に、心の中で返事をした。これでいいのだろうか?

「藍里様、残念ながら、さとり様は、我々の会話を傍受しているだけの状態です。さとり様から、この会話にお返事をいただくことは叶いません――ああ、さとり様、申し遅れました。ワタクシ、『ラプラスの魔』と申します。ラプラス・ノマではございませんので悪しからず。ワタクシは、いわば、皆様方が呼ぶ、“世界のことわり”、“Deusデウス exエクス machinaマキナ”、または、“クロノス”と呼ぶ方もいらっしゃいましたね。それらと同一の存在、だと思っていただいて結構です。皆様方の認識上では、実際に複数存在しておりますが、本来は、同一存在なのでございます。少々複雑ではございますが、ご了承くださいまし」

 そうか……僕の声は、藍里たちに届いていないのか。というか、境界カオスに存在していた、“何か”と”ラプラスの魔”は同一存在……なのか。なんだか、難しい。

「実際、私にも、ラプラスの魔さんがどのような存在なのか、詳しくは分かりません! キューブのコアはラプラスの魔さん、そのものでもあり、ラプラスの魔さんの一部でもあるのだとか――とにかくです……さとりくんに話しておきたいことがあります。いえ、こうなってしまった以上、もう、私は隠し通せません。包み隠さずお話しします」

 藍里の衝撃的な発言。キューブのコアがラプラスの魔ということは、キューブのコアは境界カオスにいる”何か”の一部でもある、ということなのだろうか? 藍里は、僕の予想通り、何かを、隠していたようだ。だが、今でも僕は、藍里のことを信じている。

「藍里様、よろしいのですか? さとり様にすべてをお伝えになる覚悟がおありなのですか?」

 ラプラスの魔は、藍里に尋ねる。

「ええ、構いません……このままだと、また、卯月さんの本能イドが不安定になる可能性も――」

 藍里とラプラスの魔がなんだかよくわからない会話をしている。愛唯の、本能イド? 僕の自我エゴと、何か関係があるのだろうか?

「承知いたしました」

 ラプラスの魔は、藍里の言葉が終わる前に答えた。


「さとりくん、まず先に、謝らせてください。私は、さとりくんに偶然を装って出逢い、意図的にさとりくんと行動を共にしていました。キューブのコアは、さとりくんの能力によって、私との繋がりが強くなっていくのです。さとりくんを利用するような形になってしまって、本当に、ごめんなさい。でも、これだけは信じてください――私は、さとりくんと一緒に居たいと願って、今まで、ずっと、ずっと、気が遠くなるほど長い時間を、貴方とともに過ごしてきました。さとりくん、貴方は、私にとって、この世界で……いえ、この宇宙で一番大切な人、なのは間違いありません……その長い時間ともにした記憶は、私にもさとりくんにも残ってはいませんが、私には、ラプラスの魔さんとの繋がりで、僅かばかり、過去に存在していた世界の記憶をよみがえらせることができます。その中で、いつも、私の傍にいてくれたのは、さとりくん、貴方だけでした――」

 藍里のその言葉に、嘘は感じられなかった。それどころか、あの慈愛に満ちた天使のような藍里のぬくもりを、その言葉から感じることすらできたのだ。

「藍里様は、本当に、さとり様のことを大切に思っております。それは、ワタクシからも痛いほどに分かりますので……」

 ラプラスの魔もそう言っている。そもそも、ラプラスの魔の存在自体が怪しいのだけれども。


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