藍里にお任せ!
――しかし、光子再生法程度の能力すらも発動できる気がしない。精神のゆらぎ……心を落ち着かせ、感情の起伏をコントロールするんだ。
だが、僕がそんなことをしている間に、赤黒いオーラを身に纏う、八神と久慈の二人が藍里に攻撃を仕掛けていく。
八神と久慈、二人がかりで藍里に容赦のない連続攻撃を浴びせている! それは、今までとは比べ物にならないほどに素早く、力強い。
すぐに藍里は押され気味となり、攻撃を防ぐことだけで手いっぱいになっていた。
「おい、久慈、今だ!」
八神の合図により、久慈はすぐさま戦線離脱し、あっという間にミィコの真後ろについた。次の瞬間、久慈はミィコの首元に“ガッ”と腕を回す。
――しまった! ミィコが久慈に連れ去られてしまう!
「ミィコ!」
「サトリ――」
「こいよ、ガキ!」
――時すでに遅し、ミィコが連れ去られていく――久慈と嫌がるミィコが、周りにできた人だかりに紛れ、消えていった。僕は、手も足も、出なかった。ごめん、ミィコ、本当に……ごめん。
「さとりん! ミコちゃんが! さとりん、どうしよう!?」
そう言いながら、愛唯が僕のジャケットの袖を引っ張る。愛唯、ごめん……僕は、何もできなかった。あれだけ、幾何学的楽園で使いこなせていた能力が、現実世界では思うように発動できない。なぜだ? なぜなんだ!? 僕の心は余計に乱れていく。
――そのタイミングで、八神に押されていた藍里が体勢を立て直し、錫杖をくるりと回す。
そして、次の瞬間、藍里は鋭い突き技を繰り出す――あれはまるで、『ルミナスブラスト』! いや、それどころの攻撃ではない! ルミナスブラストよりも速い! ルミナスブラストよりも断然速い連続突き! その攻撃に、八神は手も足も出ずに翻弄され始めている。
藍里の錫杖は目にも留まらぬ速さで動くとともに、その鋭い突きは徐々に威力を増していき――最後の一撃が八神のみぞおちにクリーンヒットした!
「グァハッ……」
八神は崩れ落ち、戦意を喪失したまま、地に膝をついてうつむいている。
――藍里が、どこか冷たい表情をしながら、僕に近づいてくる。僕はといえば、ただその場で傍観しているだけの、情けない姿となっていることだろう。本来であれば、ミィコを連れ去った久慈をすぐさま追うべきなのだ。だが、今の僕が追ったところで、何ができるのだろうか? それなら、藍里と一緒に――
「さとりくん、ミコちゃんを――」
藍里はそう言いながら、近くに落ちている肉球ぷにぷにロッドを拾い上げた。
その左手に肉球ぷにぷにロッド、右手を左手の位置から滑らせるようにして、肉球ぷにぷにロッド全体に不思議な力を与えていく。
肉球ぷにぷにロッドは淡い輝きを放ち、キラキラとした星屑が僅かに舞い散る。
『おおおぉぉ……』
その光景に人だかりからざわめきの声が聞こえる。
「――魔法付与!」
藍里の魔法付与が発動すると同時に、肉球ぷにぷにロッドは光り輝き、舞い散る星屑も藍里の持つ錫杖と変わらぬものとなった。
「藍里、これ……!?」
「さとりくん、行ってください!」
藍里から、魔法付与された肉球ぷにぷにロッドを受け取った僕は、ミィコを追うため、人だかりをかき分けていく。僕は、藍里から勇気と希望を託されたのだ。絶対に、無駄にしない。
すると、愛唯が、人だかりをかき分けながら僕を追ってきた。僕は、その場でほんの少しだけ足を止めてしまった。
「さとりん! 私に、私に何の力もなく、ごめんね……本当に、ごめんね」
そう言って、愛唯は僕の手を力強く握る。
「愛唯、そんなことないよ!」
愛唯に呼び止められたことで、僕は愛唯の手を離せなくなってしまった。
「さとりくん!! いいから、急いで!」
僕たちの話声が聞こえたのか、藍里に僕は怒られてしまった!
僕は愛唯の手を優しくほどいて、人だかりの外へと出る。
「まだ、まだだ……まだ、終わっていないぞ」
後ろの方で八神の声が聞こえる――だが、あの藍里なら問題はないだろう。むしろ、八神の身を心配したほうが良さそうだ。
――ミィコが連れ行かれたと思われる方向へ、僕はとにかく全力でひた走る。
体が痛む……久慈、許さないぞ!
僕は肉球ぷにぷにロッド握りしめた――
エントランスの広場に、観覧車前の広場ほどではないが、小さな人だかりができていた。
これは……ミィコがいるのか? なんとか、間に合ったか!? 僕は急いでその人だかりに駆け寄る。
――なんだか……すごく大喜びしているミィコを、久慈が片手で抱えている。え、ミィコ? いったい、これは? ――僕は、自分の目を疑った。
なんと、そんな久慈と対峙している相手が――ゴーティモ……!?
いや、違う! ゴーティモに見えるが、あれは紛れもなく、神社で見かけた『ヤギ男』だ! ジャージ姿にもこもこしたフード付きパーカー、あの大きな角のせいでフードはかぶれそうもない。
彼は、生きていたのか! そうか、彼は不死身だったのか! 不死身のゴーティモだ。
なるほど、ミィコが大喜びしている理由がなんとなくわかった。そう、目の前にいる彼が、ゴーティモっぽいからだ。
ゴーティモ――いや、ヤギ男は、久慈の行く手を阻むように立ちふさがっている。
「その子を離せ、さもなくば――」
ヤギ男が久慈に指さしてそう告げる。
「さもなくば、なんだ? くだらねえコスプレしてる野郎に、この俺が負けるとでも思ってんのか? ああ? そこをどけよ!」
久慈は行く手を遮られ、逃げるに逃げられない状態のようだ。
「サトリ! サトリ! やっぱり、サトリ……ミコのこと、助けに、来てくれたんですね」
ちょっと涙目になっているミィコだが、なんとか追いついた僕の登場を喜んでくれているようだ。
「チッ、雑魚が来やがった! お前、ウザいんだよ! 雑魚は雑魚らしく、地べたを這いつくばってりゃいいものをよ!」
久慈は、僕が完全に格下だと思って油断しているようだ。
今なら、藍里の魔法付与が施された、この肉球ぷにぷにロッドで、謎のオーラを身に纏った久慈にも対抗することができるはずだ!
すると、ゴーティモ――じゃなくて、ヤギ男が久慈を指さした。
「貴様の相手はこの私だ!」
勇敢なるヤギ男、神社の近くで暴走していた時とはまるで別人のようだ。
「いいや、お前の相手はコイツだ」
久慈が“ピィィィ”っと口笛を吹く――




