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噛ませ犬スキルで異世界転移 〜俺が本当の相棒に出会うまで〜  作者: 二階堂次郎
第3章 砂の都 グレイブル
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第28話 逆襲

 満月の下、石造りの巨大な白い宮殿、グレイブル憲兵団本部の入り口に二人の兵士がいた。

 一人は入念に周りを見渡して周囲の警戒をしているが、もう一人は呑気にあくびをして眠気を抑えている。


「おい、お前もちゃんと見張れよ」


「あー? どうせ賊なんかやってこねぇよ。俺たち憲兵団はもう軍隊みてぇなもんだ。誰も敵わねぇ、無敵の兵団だ」


「だとしても、与えられた任務は全うしろ」


「へいへい──あ、賊と言えばさ、昼間のアレ、見たか? 超笑えたぜ」


「ああ、あれは結構面白かったな。団長の腕を掴んだだけの他所者をみんなで袋叩きにしたやつな」


「やっぱ無抵抗の奴殴るのって面白いよなー。明日もさ、変な耳の女を広場で公開処刑するってよ。なんとか俺も混ざれねぇかな」


「お前ホントそういうの好きだな。まあわからなくもないけどな」


 ハハハハ、と笑う二人の兵士の後ろに、黒衣の男が現れた。


 黒いマントを纏った俺は、夜の闇に溶け込み、そのまま真面目ぶっていた兵士を床に叩きつけ、声をあげる間もなくその意識を奪った。


「ハッ! て、敵しゅ──」


 続けざまにもう一人、あくびをしていた兵士が仲間を呼ぶ前に、その口に布を詰めて塞ぐ。

 そして上から思い切り頭を殴って軽い脳震盪を起こさせ、気絶させた。


 俺は二人をそのまま物陰に引きずっていき、衣服を剥ぎ取りにかかる。


「ふう、ここまでは順調だな」


 俺は行商人のミクさんから買った黒いマントを着て、階段を使わずに外壁をよじ登って入り口の陰に隠れて待機、見張りの二人の気が抜けたところで一気に畳み掛けたというわけだ。


 スキルに頼っていると詠唱の声でバレてしまうが、俺にはその心配はない。

 

「よし、これでオッケー」


 俺は奪った服に着替えてこの街の憲兵団になりきると、堂々と正面から本部へと入っていった。


 ひとまずの目的は俺の貯金用の財布の奪取だが、可能で有ればダンジョンの入り口も見ておきたい。

 通路を進んでいくと、思ったより早く、目的の一つが飛び込んできた。


 入って正面の壁にダンジョンの入り口と思われる大穴が空いている。

 元々この宮殿自体、ダンジョンそのものだったという話なので、ど真ん中にあるというのも妥当だ。


(あとは俺の財布が手に入れば──)


 だがこれは一筋縄ではいかないだろう。

 証拠品の保管場所なんて、きっとずっと奥だ。簡単には見つからないに決まっている。

 

 入り口を見張っていた二人のパンツ一丁の姿が見つかるのも時間の問題だ。

 こうなったら出たとこ勝負しかない。

 俺は気づかれないように落ち着いて通路を歩いていく。

 そして、地下への階段を降りていったところで──


「ありゃりゃ? お前こんなところでニャニしてるんだニャ?」


 独房の中囚われている猫耳娘に出会った。

 腕と足をロープで縛られているが、俺のように痛みつけられていないようで、意外と元気そうだ。


「シーっ! 声が大きいよ。俺はあんたに盗られた財布を返してもらいに来ただけだ」


「ニャー、何かと理由をつけて証拠品を返さないって噂、アレ本当だったんだニャー。いよいよ憲兵団も腐ってきたニャ」


「そういうことだ。じゃあ、俺急いでるから、達者でな」


「ちょ、ちょいと待つニャ! ここで会ったのもニャニかの縁。お前、あてゃしと取引しないかニャ?」


「取引?」


 なんだろう、正直ろくでもない予感しかしないのだが。


「あてゃしをここから出してくれたら、お前の財布探しを手伝ってやってもいいニャ。どうニャ? 悪いはニャしじゃニャいだろう?」


「断る。じゃあな」


「ニャンでニャ! お前、証拠品の保管場所知ってんのかニャ⁉︎」


「いや、知らないけど、盗っ人の言うこと信用しろって言う方が難しいだろ」


 俺は今まで何度も信じた人たちから裏切られてきた。そのことを後悔しているわけじゃない。ただ、いくら俺でも反省くらいはする。やられっぱなしだって嫌だ。信じる人は選びたい。


「それに、俺はこの牢の鍵なんて持ってないし、出してやることはできないんだ」


「それなら心配ご無用。そこに落ちてる針金を、あてゃしに渡してくれるだけでいいニャ」


 猫耳娘が(あご)で指した方を見ると、確かに針金のように細い金属が転がっている。


「ニャア、頼む、この通りニャ」


 俺は牢屋に転がる少女を見下ろした。

 こいつが牢屋に入っているのは、何も無実の罪というわけじゃない。元はと言えばこいつが俺の財布を盗まなければ、俺はこんな目に遭わなかった。

 だが、表の兵士たちが言っていたことが本当なら、この娘は明日、この街の広場で公開処刑をされるという。もしかしたら殺されるかもしれない。

 その罰は、この娘が犯した罪に対して適当だろうか?


 俺がこの残酷な世界でまだ戦い続けているのは、ダンジョンで苦しんでいる人たちを救うため。そして、俺を助けてくれた翡翠色の目の彼女に出会うためだ。この娘を見捨てて、それでも俺は胸を張って彼女の前に立てるだろうか?


 俺は落ちている針金を拾った。

 

 「わかった、その取引、乗った」


 俺は牢屋の隙間から針金を差し込む。


「ニャア! 契約成立ニャ!」


 途端、猫耳娘を縛っていたロープが解ける。

 いや、こいつ、捕まっている間にあらかじめロープを解いてたのか?

 両腕も両足もろくに動かせないのに。

 どんだけ器用なんだ。


 猫耳娘は俺から針金を受け取ると、牢屋の錠前に差し込んだ。


閻魔顔(えんまがお)の門番よ、我の諧謔(かいぎゃく)にその身を(よじ)れ。“アンロック”!」


 すると、カチリと錠前が開き、床に落ちる。


「すごいな。魔法スキルか。どんな鍵でも開けられるのか?」


「うんニャー、他の魔法スキルで守られていニャい限りはニャ。ほいじゃ、次はお前の財布探しだニャ、ええと……」


 そういえば、まだお互い名乗っていなかった。


「俺はハジメ。ダンジョン探索者だ」


「おてゃしはフタバ。職業は──いちおう盗賊かニャ? まあよろしくニャ」


 俺たちは牢屋の前で握手を交わした。

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