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噛ませ犬スキルで異世界転移 〜俺が本当の相棒に出会うまで〜  作者: 二階堂次郎
第2章 死者の町 アプリナ
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第18話 リベレート

「は、ハジメさんと墓場であった時、なぜ装備をお墓に飾るのか、お話したのを覚えてますか?」


 シズヨと俺は、夜もふけたロストダンジョンをニ人で進んでいた。


「えっと、確か、ダンジョンで亡くなった人たちが迷宮に魂を縛られないように、形見を持って帰っているんだったよね?」


 シズヨは見るからに華奢でおとなしそうなのに、息を荒げながらも、なんとか俺のペースについてきていた。


「その通りです。では、もし女神様の元に行く前の魂がついた装備を迷宮に戻したら、どうなると思いますか?」


「それは──」


 どうなるんだ?

 例えば俺たちの世界なら、成仏できなかった魂は、悪霊になって人を襲ったりするとか言われてるけど──


「もしかして、このダンジョンに夜になると出るアストラル系のモンスターって──」


「はい、迷宮に取り残された魂の成れの果てです」


「まじかよ……」


 実を言うと俺は幽霊の存在を信じていない。いたら少し面白いなとは思っているが、心霊現象の類はすべて、見間違いや偶然だと思っている。


 だがこの世界ではその認識を改めなければならないらしい。

 俺が幾度となく酒場の騒音に悩まされ、睡眠を妨害されながらも、なお生活リズムを夜型にシフトせずにいるのは、このロストダンジョンに夜になると出現するアストラル系モンスターの存在のせいだ。


 奴らは迷宮の壁をすり抜けてどこからともなく現れると、探索者のMPやスタミナを奪っていくのだ。

 だから奴らにあったところで傷一つ負わないのだが、問題はその後ボーン系のモンスターに遭遇した場合だ。

 悪霊どもに気力を根こそぎ吸われてヘロヘロになったところで、もし骸骨どもに囲まれでもすれば、戦うことも逃げることもままならず、下手すると黒髭危機一髪のように身体中から剣を生やすことになるだろう。


 しかも厄介なことに、アストラル系のモンスターは、物理的な攻撃は一切受け付けない。殴っても切ってもすり抜けるだけだ。

 対抗策としては魔法系スキルが有効らしいが、撃退することはできても、倒すことはできないらしい。


「だ、大丈夫です、安心してください。迷える魂は私が、女神様の元へ送り届けます」


 などと話していると、噂をすれば、少し先の壁から青白く光る靄のようなものがぬらりと現れるのが見えた。

 スモールゴーストアステロイド。

 虚な表情で両手をぶらんと下げた姿はいかにも幽霊といった感じだ。


 この町のロストダンジョンに探索者が寄り付かないのは、宝箱やボス部屋の宝物庫などのジャックポットがないというのが一つ。

 そしてもう一つは、こいつらがいるからだ。


「放浪者よ、果てなき旅を終え、(なんじ)の行くべき場所へと()され(たま)へ。“リベレート”!」


 シズヨが杖をゴーストへ向けると、杖の先端の宝石から青い光がほとばしり、ゴーストを照らし出すと、ゴーストはそのまま雲散霧消した。

 シズヨは振り上げた杖を地面につくと、ふう……とゆっくり息を吐いて額の汗を拭った。

 す──


「すごいよ、シズヨさん! あの厄介なゴーストを倒すなんて!」


 噂ではたとえ魔法系のスキルを使ったとしても、アストラル系のモンスターはバラバラになるだけで、すぐに霊体を再構築して襲ってくるのだという。

 だからその前に逃げて距離を取るのがセオリーなのだが、今のシズヨの魔法はゴーストを散らすのではなく、しっかり倒したように見えた。

 実は謙虚なだけで、ものすごく強い術師だったりするのでは無いだろうか。


「い、いえ、倒すのとは少し違います……。私の”リベレート“は彷徨える魂を女神様の元へ送り届ける魔法スキルなんです。

だから私のスキルはああいった霊体の方にしか効きません……」


 なので──とシズヨが言いかけたところで、今度は通路の奥からガシャンガシャンと、独特な足音を響かせ、ボーンカトラスソルジャーが姿を表した。

 骸骨兵士は、目玉のない二つの空洞をこちらに向けると、剥き出しの身体を振って走ってきた。


「ひっ、ひぇ……」


 隣でシズヨが後ずさる音を聞きながら、俺は骸骨目掛けて疾駆した。


 狙うべきは左腕と肩の関節、奴が剣を振りかぶり、斬りかかろうとした瞬間──


 ここ!


 俺は全力の右ストレートをボーンカトラスソルジャーへと叩き込んだ。

 振り上げられた白骨の左腕がカトラスを握ったままぼとりと落ちる。


 ドクロ野郎は振り下ろそうとした自分の左腕が地面に落ちたのを穴が空いた両目で見て不思議そうにしている。

 俺はそのままその間抜け面目掛けて左アッパーを繰り出した。

 顎の割れる感触が拳に伝わるのを感じながら、ゆっくりと息を吐く。

 直後、ボーンカトラスソルジャーが地面に叩きつけられ、頭蓋骨が砕け散る音がダンジョンに鳴り響いた。


シズヨのところに戻ると、前髪の隙間からキラキラと目を輝かせ、手を叩いて感激していた。


「す、すごいですハジメさん! あのモンスターさんを一瞬で倒すなんて! しかもスキルも使わないで! すごいです! すごすぎます!」


「いや、そんなことないよ……」


 これは謙遜ではなく単なる事実だった。三ヶ月も同じ系統のモンスターと戦い続ければ、一瞬で倒せるのはある意味当たり前だし、スキルは使わないのではなく使えないのだ。貶されることはあっても褒められることではない。


「いえ! すごいですよ! 少なくとも、私にはできません!」


「え、そうなの?」


「は、はい、先ほど言いかけたんですが、私が祓えるのは迷える魂だけなんです。だから骨のモンスターさんにはどうすることもできません」


「そうなんだ?」


「だ、だから私のこのスキルも、このロストダンジョンでしか活かせないんです。せっかく協力していただいてるのに、こんな役立たずで、すいません……」


「え、ちょっと待って、シズヨさんが役立たずであるという意見は後で全力で否定するとして、他のダンジョンでも、アストラル系のモンスターって出現するんじゃ無いの?」


 ダンジョンで命を落とした者の彷徨える魂が具現化した者が、アストラル系のモンスターであるはずだ。他のダンジョンも、まさか死者ゼロってわけではないだろうし、その魂を救うこともシズヨならできるのでは無いだろうか。


「それは──その、迷える魂になってしまうのは、現世に、そして特に他の人間に恨みがある探索者さんだけなんです」


「他の人間を、恨む……」


「えっと、そうですね……」


 とシズヨは言い淀み、少し考えてから、


「そうですね、ハジメさんには知っておいていただいた方がいいかもしれません。子どもたちのところへ向かいながら、私が説明いたします。この町の凄惨(せいさん)な歴史と、代々受け継がれてきた、私たち墓守の本当の役目について」

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