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噛ませ犬スキルで異世界転移 〜俺が本当の相棒に出会うまで〜  作者: 二階堂次郎
第2章 死者の町 アプリナ
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第17話 お人好し

 シズヨの頼みで墓荒らしを探すことになった俺は、先ほど名前を知ったばかりなのに、知り合いも友達も彼女も飛び越えて婚約者となった墓守の少女と共に、アプリナの町の商店外に来ていた。

 情報収集といえば商店街だろう。

 人探し歴三ヶ月の俺が保証する。

 まあ、結局その人探しも振り出しに戻ってしまったわけだが……。


「う、うわぁ、に、賑やかですねぇ」


「そうかな? いつもこんなもんだよ」


 アプリナの町は決して寂れているというわけではないが、今が夜ということもあり、人通りはそんなに多くない。むしろ少ない方だ。同じ商店街でもヤマトたちといたオランゲルの方が、何倍も賑わっていたように思う。

 かつてダンジョンで栄えていた町と、今なおダンジョン攻略で栄えている町の違いだろう。


「で、でも、私はいつも墓場にずっといるので、こんなに人がいるのを見るのはお葬式ぐらいです」


「いつも? 買い物とかはどうするんだ?」


「は、墓守は町のお仕事なので、お金も食べ物も、町長の娘さんが持ってきてくれるんです。だから外に出かける必要がないんです。むしろ、お墓に何かあってはいけないので、禁止されているわけではないですが、外出はあまり推奨されていないです」


 い、今は墓荒らしさんを探すためなので、大丈夫ですけどね! とシズヨは慌てて付け加える。

 俺は顔をしかめた。

 こんな年端もいかない女の子が気軽に町に遊びに行くこともできない制度が罷り通っていることに嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

 だが、コミュニティにはそこに暮らしている人たちの事情がある。他所者がどう思うのかは自由だが口を突っ込んでもいいことはない。むしろ引っ掻き回すだけだ。

 現に、相手の事情も知らずに無理に目を見た結果、こうなっているのだ。余計なことはしないに限る。

 けれど──


「シズヨさん、あそこにアイスが売ってるよ。食べる?」


「あ、あ、アイスクリーム! 私、ずっと気になってたんですっ!」


 これぐらいは許されるだろうか。

 俺たちは墓場の近くで怪しい人物を見なかった、聞き込みをしながら商店街を回ることにした。


「あのお花屋さんのお嬢さんが何か知っているかもしれません!」


「あの防具屋のご主人は博識で有名と聞きました!」


 シズヨは色々なお店があるのか珍しいのか、聞き込みを理由に次々と暖簾をくぐっていった。

 墓場で会った時は物静かな印象だったが、思ったより根は明るいのかもしれない。

 ただ、ほんのちょっとコミュ障なだけで……。


「ごめん、聞いてもいいかな。シズヨさんって年はいくつなの?」


 女性に年齢のことを聞くのはマナー違反だが、形としては婚約者ような扱いになってしまっているので、これぐらいの質問は許して欲しい。


「え、えっと、十四歳で墓守りを継いでから四年になるので、今年で十八でしょうか……」


 思ったより大人だった。

 というかまさかの一つ年上だった。

 身長が低いのと、前髪で顔を隠しているのでわからず、勝手に年端もいかない女の子扱いしてしまった。本当に女性の年齢は魔境だ。

 と、シズヨのプロフィールについては意外な事実が分かったが、肝心の墓荒らしについての聞き込みの成果は今のところ得られていない。


「あとはまた、あの人に頼るしかないか」


「──で、私のところにいらっしゃったというわけですね?」


 聞き込みを開始してからおよそ一時間後、俺とシズヨさんは行商人さんのところに来ていた。といっても、効率重視でシズヨさんは隣の雑貨屋で話を聞いている。

 彼女からは俺がこの街に来て以来、ロストダンジョンのことや感謝祭のことなど、様々なことを教えてもらっている。

 行商人さんに聞けば、墓荒らしについても何か有益な情報が得られるかもと思ったのだが──


「いいですねぇ、ハジメさん。随分と楽しそうで。もしかして彼女さんですか?」


 なんだか行商人さんの様子が、いつもと違うようなのだ。

 いや、表情自体はいつもと同じ、素敵な笑顔だ。だがその笑顔がいつもより作り物めいているというか、言ってしまうと明らかな営業スマイルなのだ。

 そしてこれはおそらく気のせいだと思うのだが、彼女の額に何やら青筋のようなものがビキビキとたっているのが見える気がする。

 だがこれはあくまで気のせい。なぜなら行商人さんが怒る理由が思い当たらない。

 俺は隣の雑貨屋にいるシズヨさんをチラ見しながら言う。


「いや、彼女というか、婚約者……みたいな?」


 ビキビキッ!


 なぜだろう、行商人さんの額に青筋がもう一つ増えたような気がする……。


「婚約者、ですって? それは、いったいどういう?」


「いや、話せば長いんだけどね……」


 仕方がないので、シズヨさんと誤って婚約者になってしまった成り行きを説明する。

 うまく話せたかどうかわからないが、必要最低限のことは伝えられたように思う。


「なるほど、目を見てしまって、ね」


 するとひとまず青筋の幻覚は消えた。

 何がなんだかわからないが、とりあえず変なものは見えなくなったのでよしとする。


「ハジメさんは本当にお人好しさんですね」


「え?」


 今俺は褒められたのだろうか。いや、とちらかというと皮肉を言われたのだろう。


「だってその、シズヨさん? の話を全部信じたわけですよね。目を見たら一生添い遂げる仲になるっていうものを」


「うん、まあ、そうだね」


「それがお人好しだって言うんです。墓守の一族に本当にそういうしきたりがあるって、どうして言い切れるんですか? ハジメさんを騙して結婚させて、財産を奪う算段かもしれないじゃないですか」


「それは──」


 確かに行商人さんの言う通りだ。俺はシズヨさんの、いや、あの時まだ名前すら知らなかった墓守の少女の言葉を、何も考えずにただ信じた。疑うことさえしなかった。

 ダンジョンの最奥、薄れゆく意識の中でヤマトに言われたことを思い出す。


「お前が悪いんだからな」


 あの時は単なる捨て台詞としか思わなかった。だが今になって思う。相手をまったく疑わない俺も悪かったのだろうかと。

 信じると言えば聞こえはいいが、会ったばかりの人間を無条件に信頼するのは全面降伏に等しい。それはまるで、無防備にお腹を見せて横たわる犬のように──


 俺が考え込んでいると、行商人さんは焦ったように、


「勘違いしないでください、責めているわけではないんです。その純粋さはハジメさんの良いところでもあると思います。ただ、もっと自分を大切にして欲しいんです」


 と付け加えた。


 俺は思う。優しいな、行商人さんは。ただの客に過ぎない俺の心配をしてくれるなんて。

 だが俺は自分を、大切だとは思えない。


 行商人さんはなぜか発言の後に顔を赤くすると、取り繕うかのようにワタワタと手を動かし、ゴホンと一つ、咳払いをした。

 

「失礼、話が逸れました。それで、墓荒らしについて何か知っていることはないか? という質問でしたよね。正直、直接的に知っていることはありませんが、最近妙な噂を耳にしました。なんでも、町の子どもたちが数人集まって、墓場に向かって歩いていくのを見たとか。ハジメさんたちが探している人たちと、何か関係があるでしょうか?」


 子ども……?

 そう聞いた時、頭の奥で何かが爆ぜるような感覚を覚えた。

 確かに一見無関係に思える。金銭目的の墓荒らしであるのなら、例え盗んだとしても、装備の売買のパイプを持っていないであろう子どもには、意味のない話だ。

 だが──


「そうだ! ロストダンジョンで見た子どもたちだ! チグハグな装備を身につけていたから気になっていたんだ!」


 お墓に立てられるのは一人につきバックルやアーマーといった装備が一つだけ。もしそれを組み合わせて全身を揃えようと思うのならサイズも材質も異なったキメラのような装備ができあがるだろう。

 彼らの格好はまさにそういったバラバラ装備だった。

 あの子どもたちこそ、墓荒らしの犯人だったのだ。


「い、い、今の話、本当ですか?」


 隣で話を聞いていたシズヨさんが、駆けてきた。


「だ、だとしたら、急いでロストダンジョンに行かないと、大変なことになります……!」

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