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噛ませ犬スキルで異世界転移 〜俺が本当の相棒に出会うまで〜  作者: 二階堂次郎
第2章 死者の町 アプリナ
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第15話 墓守の少女

 なんだかんだあって、町外れの墓地に着いたのは夕方になってからだった。

 日頃の疲れが溜まっていたのか、まず目が覚めたのが昼過ぎくらい。いつもの起床時間が体感朝八時くらい(なおこの世界に時計はない)なので、この時点で寝坊確定だ。ロストダンジョンで軽く狩ってから墓場に行くというスケジュールはこれで完璧おじゃんになった。


 それから一度起きて、霧がかかった頭のまま酒場のマスターが用意してくれた朝食(昼食?)を食べるも意識はハッキリせず、ベッドに倒れ込むとそのまま眠ってしまい、もう一度起きた時には黄昏時だった、というわけだ。


「異世界に来てまで二度寝とは、我ながら情けない……」


 そのおかげといってはなんだが、体調はこれ以上ないくらい回復したので、後悔も別にしていないのだが。

 ポーションでは回復できないものもある。

 例えばそう、寝不足とか。

 

「だが流石にこの雰囲気には嫌でも目が覚めるな」


 墓地は如何(いか)にもここが墓地である、という異様な雰囲気を放っていた。

 空がどんより曇っているというのもあるだろうが、あたりはほんのり薄暗く、木陰になっているところは夜のような暗さだ。

 木にとまっている野生のガガラスがグワァーと鳴く。

 ジメジメ湿気が立ち込めていて、空気がくぐもっているのがわかる。まるで今にも何か出てきそうだ。

 そして何より異様なのは──


「すごい数の装備だ」


 地面に無数に、だが規則正しく打ち付けられた杭の上には、同じく無数の装備がかけられていた。

 鎧、兜、籠手、グローブ、遺物のネックレス。

 おそらくはこれがこの町の──


「お、お墓の形見を取っちゃダメです……」


 !!!!!


 不意に背後から声がしたので、俺は反射的に飛びのいて、拳を構えた。


「ひ、ひぇ……」


 俺の目線の少し下に小柄な少女がいた。

 手には先に宝石が付いた杖を構え、警戒しているためか細い腕でギュッと握りしめている。

 全身を黒いローブで覆っている上に目元まで長い前髪で隠している。

 俺は慌てて戦闘態勢をやめて両手を挙げ、敵意がないことを表した。


「ごめん、怖がらせちゃった?」


「は、墓荒らし、ダメ、ゼッタイ………」


 墓荒らし?

 元いた世界でもその単語は聞いたことがある。火葬が一般的になる前、土葬の時代には死体と一緒に埋められた金品や宝石を目当てに墓を掘りおこす盗人がいたという。

 だがこの町での意味はおそらく──


「だ、ダンジョンで亡くなった人たちは、そ、その魂がダンジョンに縛り付けられないように、か、形見として装備をお墓にかけるんです……だから、取っちゃダメです……」


「な、なるほど」


 やはりこの町では墓石や十字架ではなく、杭と生前使っていた持ち物を墓にしているのだろう。そしてその装備の中にはまだ使えるものもあり、墓荒らしは装備を金に換えるために盗むのだと推測できる。


「って違う! 俺は墓荒らしじゃない! 探索者だ!」


「た、探索者?」


「そうだよ!」


「…………」


 少女は杖を下げてフーッと安堵のため息をついた。

 なぜだか少女はその言葉で警戒を解いたようだった。

 こちらも釣られてホッとする。


「こ、この町にも探索者さんがいたんですね……」


「いや、俺は最近この町に来たんだ。人を探しに来てて、それで、この墓地にその人がいるって聞いたんだけど」

 

「な、なんだ、そうですか、人探しですか……」


 なぜか少女は寂しそうな表情を浮かべたが、フードを被っていてよく見えないので俺の見間違えだったかもしれない。


「それで、死んだ人を蘇らせるスキルを持った人を探しているんだけど……」


 と、そこまで言ったところで気がつく。

 この少女がまさにそうなのではないか、と。

 周りを見渡しても、目につくのは死んだ人ばかりで、生きているのは彼女だけだ。


「もしかして君、そういうスキルを持ってたりしない?」


「え、え、え」


 今度は酷く動揺している。俺もあまりひとのことを言えた義理ではないのだが、どうやらあまりコミュニケーションが得意では無い子のようだ。


「は、はい。多分持ってる、と思いますけど……」


 なんだかはっきりしない答えだ。だがこの場でスキルの証明をするのは困難だ。俺が死んで実際にスキルを見せてもらう、というわけにもいかない。

 であれば他の方法で確認するしかない。

 俺は失礼、と呟くとおもむろに少女の前髪を上にかきあげた。


「ひゃ、ひゃえ⁉︎」


 少女は素っ頓狂な声をあげるが、俺は気にせずに彼女の目の色を確認する。

 遠くからだと暗くてよく見えなかったのでお互いのおでこが当たるくらいまで近づく。

 少女の(ほお)がリンゴのように真っ赤に染まるが、正直気にしている余裕はない。

 前髪に隠れて今まで見えていなかったそれは、とても綺麗な鳶色だった。

 だがどう見ても翡翠色ではない。

 この少女も俺を救ってくれた彼女ではなかったのだ。


 また振り出しに戻ってしまった。

 俺は落胆とともに顔を話すと、今更ながら自分がしでかしたことに気づいた。

 慌てて彼女から距離を取る。


「ご、ごめん! 違うんだ! ちょっと確認したいことがあって! それで……」


「…………」


 こんな時なのに、いやこんな時だからと言うべきか、少女は顔を伏せて黙り込んでしまった。

 申し訳ないことをしてしまった。なんとか許してもらえないだろうかと様子を伺っていると、彼女が突然口を開いた。


「わ、私は、は、墓守の一族なんです……」


 え?

 急になんの話をしているんだ? と俺が思っていると、


「わ、私の一族では、た、他人の目を見るというのは基本的に禁じられていて、そ、それで、もし目を見られたら、一生添い遂げなければならないんです……どちらかが、死ぬまで、一生……」


 それって、つまり──


「わ、私とあなたは、事実上、ふ、ふ、夫婦ということになります。これから、ずっと……」

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