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噛ませ犬スキルで異世界転移 〜俺が本当の相棒に出会うまで〜  作者: 二階堂次郎
第2章 死者の町 アプリナ
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第14話 酒場の宿

「はあ、今日も疲れた……」


 俺が宿屋に戻ったのは、すっかり日も暮れて鳥類系モンスターのガガラスが鳴き出した頃だった。

 ちなみにこの世界ではダンジョン外にもモンスターがいるようだが、ダンジョン内にいるモンスターよりもおとなしく、ほとんど無害だ。野生のイノシシと飼い慣らされた豚くらいの違いがある。

 

 帰り道、町の人たちから蘇生スキルを持った少女について何か知らないか聞き込みをしていたので、すっかり遅くなってしまった。結局めぼしい情報は無し、知らぬ存ぜぬ一辺倒だったのが残念な限りだ。


 だが落ち込んでいても仕方がない。また明日も朝からロストダンジョンにこもって日銭を稼がなければならないのだ。探索者にとって体力の回復は立派な責務であり、それを怠ることは死に直結する。全身全霊を持って休まねばならない。


 俺は気を引き締めて宿屋のドアを開けた。

 途端──


 凄まじい喧騒(けんそう)が俺を出迎えた。


「だからそん時俺は言ってやったんだよ! いつまでもダンジョンだけじゃ食っていけねぇって!」


「そうは言ってもよぅ、今さら生産系スキルとったって若いモンには勝てねぇだろうがよぅ」


「おいおい! こっちまだ飯が来てねぇんだけど!」


「どうせこちとら半隠居の身だ。今晩の酒代と自分の墓代が稼げりゃ、何の文句もねぇよ」


 この町にきてから俺が泊まらせてもらっている部屋は、アプリナで一番安いのだが、酒場の二階にあるためにうるさくて仕方がない。


 だがここでへこたれてはいられない。俺は疲れた身体に鞭を打って気合いを入れ直すと、アルコール臭いじいさんたちの間をくぐりぬけて、マスターが居るカウンターへと急いだ。

 さて、ここからが腕の、いや、喉の見せ所だ。


「マスター! ただいま! 鍵ちょうだい!」


「おおう、ハジメか! おかえり! どうした⁉︎」


「だから! 鍵! 俺の部屋の鍵ちょうだい!」


「ああん! なんだって!?」


「鍵!!」


「馬鹿野郎! 未成年に酒は出せねぇよ! 大人になってからな!」


「違うってじいさん!! 鍵!!」


「しょうがねぇなぁ! 今晩だけだぞ⁉︎」


「なに酒出してんだ!! 鍵よこせジジイ!!」


 酒場のマスターは俺みたいな他所者でも気軽に泊めてくれる良い人なのだが、歳のせいで耳が遠い上に、酒場がうるさいせいで毎日こんなやり取りをしなければならない。


 無論、大声で叫ぶことくらい大したことではないのだが、一日中モンスターと戦った後となると話は別だ。残りわずかになったケチャップを出すがごとく、体力を絞り出す羽目になる。

 結局、階段を登り鍵をもらって部屋に着く頃にはヘトヘトになり、俺は半ば倒れるようにベッドへとダイブした。


「風呂……は、今日はもういいか……」


 どうやらこの世界の風呂は一般家庭にまでは普及していないらしく、大衆浴場がある程度だ。この酒場からはそれなりに距離があるので今から入りに行くのは体力的にキツい。

 俺はそのままベッドに沈み込むように、泥のような眠りに身を任せて……


 ドッッ!!! と爆発音のような笑い声で意識を引き戻された。

 この部屋は酒場の真上にあるので時折り下の階の会話や笑い声や爆笑が聞こえてくるのだ。

 そのためどんなに疲れていても酒場が閉まる早朝になるまで熟睡というのが基本できない。

 代わりと言ってはなんだがマスターの厚意で格安で住まわせてもらっているので文句を言える筋合いではないのだが………


「やはり眠れないのは精神的にも体力的にもくるものがあるな……」


 諦めて生活習慣を変えるという方法もあるのだが、仮に昼に起きて夜中までロストダンジョンで狩りをするとなると、かなり厄介なモンスターと戦うことになる。以前知らずに戦って、死にかけた。


 今でこそ骸骨たちとの戦いにも慣れてきているが、俺がソロであるということを忘れてはならない。いざという時のバックアップがないということは、ほんの小さな綻びが死に直結するリスクがあるということだ。


「諦めてこの生活を続けるしかないか……」


 俺が忌々しそうに目を瞑ると、階下の話し声が断片的に聞こえてきた。


「町外れ……墓場……女……スキル…蘇らせる……」


 曖昧(あいまい)な意識の中で、俺は思った。もしかしたらそれは、俺を助けてくれた蘇生スキル持ちの女性のことではないだろうかと。


 確かにアプリナの町の郊外には墓場があったはずだ。そこに行けば探している女性に会えるのかもしれない。

 ひょんなことから希望が見えてきた。

 もっと何か聞けないだろうかというところで俺の意識はブラックアウトし、俺はまた船を漕ぐような断続した睡眠の波に呑まれていった。

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