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噛ませ犬スキルで異世界転移 〜俺が本当の相棒に出会うまで〜  作者: 二階堂次郎
第1章 はじまりの街 オランゲル
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第1話 噛ませ犬スキル

 俺たちのパーティは苦戦を()いられていた。ギルバーグウルフキングはこのダンジョンのボスモンスター。無論、簡単に勝てる相手じゃない。

 だが倒せないのは相手が強いからというだけではなく、端的に言ってしまえば、俺のスキルのせいだった。

 俺のスキルは戦局を左右するほどに強力だ。だが再使用には時間がかかる。というか、本来であれば一生に一度しか使えないスキルなのだ。それを無理やり何度も使っているのだから仕方がない。

 しかしながら、はっきり言ってパーティメンバーたちはもう限界だった。


「みんな! もう一息だ! 頑張れ!」


 前線でタンクを張っているのはこのパーティのリーダーであり、同時にメインアタッカーでもあるヤマトだ。自身の体力も鎧もボロボロだが、仲間たちを鼓舞するように必死に声を張り上げている。


「ヤマト! 回復いくよ! “シャインライトリジェネーション”!!」


 そんなタンクを回復魔法スキルで援護しているのはサブアタッカー兼ヒーラーのマドカ。彼女は前線に立たないので体力こそ満タンだが、MPがもう底を尽きようとしている。今もポーションを飲みながら魔法スキルを発動している。彼女の魔法スキルが止んだ時が、このパーティ壊滅の時だ。


「ちくしょう! デカブツ! こっち向きやがれ!」


 カエデが弓矢でウルフキングの足を射るが、強靭な皮膚と大きな斧に弾かれて傷一つつけられない。彼女は索敵と罠解除が専門のスカウト職で、普段は戦いに参加しないが今は少しでもボスの隙を作ろうと必死に弓を射ている。だがそれもどうやらほとんど効いていないようだ。


 そして、肝心の俺はと言うと──


「…………」


 前線よりも遥か後方、非戦闘職のカエデよりも後ろの岩陰で、スキルが発動できるようになるのを今か今かと待っていた。

 自分が今現在、役立たずなのは身に染みてわかっている。本当は盾役でもなんでもいいから前線に出て、仲間たちと一緒に戦いたい。しかし俺のスキルがそれを許してくれない。このスキルのせいで俺は盾どころか杖も弓も満足に使えないのだ。

 俺が使うのは身体よりも大きな大剣のみ。しかもこの大剣すら、俺は本来の用途で使う事はできない。大事なのはこの大剣の見た目だけだ。ただこの大剣が、“いかにも敵を一撃で倒せそう”であればそれでいい。


 そして、ウルフキングの巨大な斧がヤマトに襲い掛かろうとしたその時、


──スキル発動の準備が整った。


 俺は背中から大剣を抜いて、ギルバーグウルフキングへと疾駆した。

その勇敢な行動とは裏腹に、俺の身体はこれから自らに自分に起こることへの恐怖でブルブルと震えていた。

 今から俺が叫ぶ台詞。それが虚勢だと思われてはいけない。それが蛮勇だとバレてはいけない。いかにも強力な敵が現れたのだと、勝利の女神に思わせなくてはならない。

 身体の震えを止めるように、より大きな声で叫ぶ。


「冥土の土産に教えてやるぜ! 俺はハジメ! お前を倒す男の名前だーーーー!!!」


 強くなくていい。強そうであればいい。

 倒せなくていい。倒せそうであればいい。

 俺は大剣を振りかぶってギルバーグウルフキングへと突撃し、そして────────


 グギゴバキャッッ!


 俺は狼王が振り下ろした大斧によって勢いよく吹き飛ばされ、ダンジョンの壁にめり込んだ。

 装備していたアイテムによってなんとか上半身と下半身がサヨナラするのは免れたようだが、すさまじい痛みに混ざった身体の感触からして、どうやら肋骨が何本か折れており、それが肺を突き破ったようだ。このまま何もしなければ呼吸困難で間違いなく俺は死ぬだろう。


 俺の攻撃は無駄に終わった。

 突如現れた新手を一瞬で粉砕した喜びを表現するかのように、ボスモンスターはダンジョン全体に轟くように雄叫びを上げる。

 あとは残った瀕死のゴミどもを片付けるだけだぜ! とでも言うかのように。

 だがそれも、長くは続かなかった。

 次の瞬間、俺以外のパーティメンバーたち全員を不思議なオーラが包み込む。


 攻撃力上昇。

 防御力上昇。

 素早さ上昇。

 体力、魔力、限界突破。

 エクストラスキル解放。

 運命力極限。


 それは俺のスキルによって幾重にも重ねられたバフの光だった。

 スキル、アンダードッグパラドクス。

 圧倒的な強者のように見えるものが一撃でやられることで逆説的に周囲の者たち全員をそれ以上の強さへと引き上げるスキル。

 早い話が噛ませ犬スキルだ。

 この世界で俺にだけ備わった、運命の女神を鼻で笑い、勝利の天秤をおもちゃにするような、とんでもないユニークスキルだ。


 額から溢れた血で前が見えないが、ヤマトたちの歓声が聞こえる。おそらく今回も勝てたのだろう。

 ああ、走馬灯が見える。そもそも俺はどうしてこの世界に来たんだっけか。

 襲いかかる睡魔に身を委ねるように俺は静かに目を閉じた。


読んでいただきありがとうございます!

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