91 処遇を決める前に調査です5
反射的に飛び退いた私は白く半透明なプラプラしたものを辿って上を見た。白くて半透明な円形のものが空に浮かんでいる。UFO?UFOに脚が生えてる?
「これがさっき言った浮かぶ奴です」
ボロボロの人が言った。
何だろう、UFOじゃなくてもっと近いものを見た気がする。うーん、と考えているとまた襲って来たので避ける。ああ、そうだ、クラゲよ、前世の水族館で見たクラゲに似ているんだわ。今まで見たことなかったけどこの世界では海じゃなくて空中にクラゲがいるのね。どんな原理で浮いているんだろう?気球みたいな感じ?風船みたいな感じ?解剖すれば分かるかしら?これを応用したら異世界でも乗り物に乗って空を移動出来るようになるかな?
「討伐と素材採取の許可はもらえるかな?」
さっきこれを追って来たと聞いたばかりなので、念のため尋ねてみた。二つ返事で了承された。
よし、敢えて捕まって上空で魔力による打撃を与えよう。ヒュストに乗れば飛んでくれるけどあまり大勢の前で披露しない方がいいだろう。私はヒュストに念話で作戦を伝えた。
『わざと捕まって上空で傘の部分を狙うことにするわ。脚に攻撃すると、脚を切り捨てて逃げるかもしれないからね』
若様団長たちにも伝えると今度は避けずに捕まった。私を捕まえると空クラゲ(勝手に命名)は一気に高度を上げた。多分空クラゲは何らかの麻痺物質を出していたと思う。私には効かないけど。体の表面を魔力でピッチリコーティングしているからね。
私は捕まりながら下を見た。ヒュストは飛べるけど私を乗せてここまでの高さに来たことはない。うーん、結構な高さだわ。高所恐怖症じゃなくて良かった。
‥‥綺麗だなぁ。前世では衛星画像とかで日常的に空からの視点で地上を眺めることが出来たけど、この世界では初めてだわ。家々の屋根がどんどん小さくなっていく。川が銀色に輝いている。緑なす木々も山も遠くなっていく。なんだかどうしてか分からないけど、胸が一杯になった。感動もしてるけどそれだけじゃない。懐かしいような愛しいような表現のしようがないこの感情は何なんだろう?‥‥もしかすると神様はこんな感じで地上を見ておられるのかしら?とふと思った。宇宙飛行士になって月に行った人が凄く敬虔な信仰者になったりすると言う話を聞いたことがあるけど、こんな感じで胸を打たれるのかな?
私を転生させてくれた神様は今の状況を見ておられるのだろうか?ヒュストに念を送るように神様に送ってみた。届くかな?
神様~、私は今、空中散歩中です。何だか懐かしい気持ちがするんです。何故でしょうね?
しばらくすると空クラゲの上昇が止まった。じっとしていると空クラゲはゆっくりと私を傘の方に引き揚げていく。脚が長いから時間がかかりそう。脚の長さは20メートルぐらい?結構大きくて、多分傘の直径は8メートルはある。クラゲの体の仕組みってどうなっているんだろう?急所は何処かな?
‥‥そう言えば、Sランク"昇天"の時は鼻面の一撃で大丈夫だったわね。じゃあ空クラゲも魔力をバチバチにして傘の部分に衝撃を与えるならどこでもいいのかも?万一空に放り出されても魔力を体に纏わせてクッションのようにすれば何とかなるよね。本当にヤバくなったらヒュストが来てくれるだろう。
私は気楽なものだった。地上では若様団長たちが心配でヤキモキしているなんて思ってもみなかった。支所長なんかは、お嬢様ですからね、の信頼が半端ないので平然としていたらしい。
あと10メートルぐらいで傘に手が届くところまで来た。私はいつでもどこでも攻撃できるように全身魔力でバチバチになってる。漏れないように気を付けて、ちょっとでも刺激が与えられたらそこから魔力が迸り出るように調節している。それにしても動きがゆっくりだ。いい具合にゆらゆらしていてこのまま眠ってしまいそう‥‥。
私は本当に眠ってしまったらしい。気が付いたら空中に放り出されていて、傘を下にして落下していく空クラゲが見えた。多分私を食べようとして魔力にやられたんだろう。出来れば空クラゲの脚をもって傘をパラシュートのようにして降りたかったけど既に空クラゲの方が地面に近いからどうしようもない。
私は自分を魔力で覆って緩衝材代わりにした。でも地上までの距離がまだ大分あったのでこの際に色々試すことにした。まずは魔力をパラシュートのような形にして密度をあげた。すると何ということでしょう、本当にパラシュートのように落下速度が緩やかになった。感動した私は次に魔力を翼のようにしてみた。ヒュストが私の魔力が使えるようになって翼が出現したんだから、私にだって出来るはず。だって元は私の魔力だもん。天使の翼をイメージして魔力を動かしてみるけど自分の背中のせいかイメージが上手く出来ない。これはイメージトレーニングしないと無理だわ~。試行錯誤しているとヒュストから念話が届いた。
『主、地上が近いぞ』
ああ、そろそろ魔力をパラシュートと緩衝材に変えなくちゃ。魔力をパラシュートと緩衝材に変えた直後に、ドスンという結構な音がして下から風圧が来た。空クラゲが地面に墜落した衝撃だった。そのせいでまたちょっと上に戻ってしまった。
それから私は何てこともなく無事に地面に着地した。若様団長が駆け寄って来た。
「無事で良かった!」
若様団長が抱き付いてこようとしたので、私は思いっきり避けた。
「心配してくれてありがとう。でも身バレしたくないので人との接触は避けているんだ、すまないね。この通り無事だよ」
「お、そうだったな。悪い悪い。つい騎士団のノリになってた」
若様団長はハハハと嬉しそうに笑った。
やっぱり何か憎めない人だなぁ。
「これで特に危険な魔獣は三つ犬だけですね。絶望的な状況だと思っていましたが、お陰様で希望が持てそうです!」
ボロボロの人が嬉しそうに言った。
「その三つ犬もついでに現れてくれれば手間がなくていいのに」
私はつい言っていた。聞いたからにはこの後探し出して討伐するのは決定だった。




