86 Sランク"昇天"討伐の後で
昇天の所に戻ると、商会の皆が昇天に群がりせっせと解体作業を進めていた。何だか何処かで見た光景だと思ったら前世で夏になると見かけることがあった、虫の死骸に蟻が群がって解体していく作業に似ている。ここまで大きいのには滅多にお目に掛かれないから人が小さく感じて夏の光景を思い出したんだろう。
支所長が私に気が付いてやってきた。
「お疲れ様です。お嬢様。お見事でした」
周りに人がいないからお嬢様呼びに戻っているわね。
「ありがとう。囮たちの様子はどうかしら?」
「囮は途中から失神していたようで、まだ意識が戻っていません。護衛たちの意識はしっかりしています」
「反省出来たのかしらね?ちょっと行ってみましょう」
私と支所長は護衛たちのところに行った。私を見た護衛たちは姿勢を正した。
「どうかしら?何か感じるところはあって?」
「はい、私は今までの自分が恥ずかしくなりました。タクエン様に付いていることで、自分が偉くなったと思い違いをして、いつの間にか人を見下すようになっていました。Sランクに迫られてこれで最期だと思ったら、魔獣に襲われている人達がいる時に安穏としていた自分に罰がきたように感じました。今後はもっと真面目に勤める所存であります」
私は頷いた。
「私もです。いつの間にかタクエン様の機嫌を取ることに終始していました。もっと鍛練しておくべきだったし、魔獣討伐に参加するべきだったと後悔しました。心を入れ替えて頑張ります」
私は頷いた。
「私もSランクに追い掛けられながら反省しました。Sランクの牙が間近に迫った時、己の一生が見えたのです。ヒーローに憧れて人の助けになりたいと真面目に努力して騎士団に入ったはずでした。ただ自分より優れた人は沢山いて、いつしか努力をしてもヒーローにはなれない、無駄だと思って楽な方に、人を妬む方に流れていました。このまま生涯を終えたら後悔する、そう思った時に神に祈りました。ここで助かったら必ず自分のためではなく人を助けるために努力をしますと。これからは人の助けになるように努力したいと思います」
私は頷いた。皆、何かしら自分を振り返り、心を入れ換える切っ掛けになったようだ。
「3人とも得るものがあったようで良かったですわ。今後のあなた方の精進に期待します。
ところで、囮役の彼はいつまで意識があったかご存知?」
「Sランクが飛び掛かってきた時に失神したと思います」
うーん、それできちんと反省出来たのかしら?
「反省出来てると思う?」
3人は顔を見合せた。
「どうでしょう。タクエン様ですからねぇ」
3人ともきちんと反省出来てるとは思えてない様子。
さて、どうしたものかしら。私が考えているとキースがやって来た。
「メリアージュ嬢、ここにいたんだね。難しい顔をしてどうしたの?」
「あ、キース様。囮なんですが、Sランクが飛び掛かってきた時に失神してしまったらしいのです。反省が出来てない可能性が高いらしくて。何かいい方法がないか考えていたのです」
キースはSランクの方をチラリと見て言った。
「Sランクの顔の前に放置したらどうだろう。幸い顔の部分の解体は手付かずだよ」
ああ、確かに意識が戻った時にSランクの顔が目の前にあったら驚くわね。私はキューラス領にて魔蜘蛛の前で起こされた解体担当たちを思い出した。それで反省出来るかしら?‥‥取り敢えずやってみて、反省出来ないならまた考えればいいか。
「そうですわね、囮をSランクの顔の前に持って行きましょう」
いつの間にか近くに来ていた商会の討伐メンバーが囮を顔の前に設置した。
それを見届けた囮の護衛をしていた3人が、
「遅くなりましたが、今から魔獣の討伐に参加したいと思います。ご許可を頂けますか」
と言ってきたので快く送り出した。
気が付くとトムスカナ伯爵とそのお供も近くに来ていた。
トムスカナ伯爵は私の前に来ると深々と頭を下げて礼をした。
「Sランクを討伐していただきありがとうございました。お陰様でこれ以上被害が出ずにすみます」
私は頷いた。
「あとは各地に散った魔獣ですわね。それは大丈夫だと思われますか?」
「Sランクの討伐に関わっていた騎士団員がそちらに回ったので心配ないと思います」
「そう、それなら安心ですわね」
「それで貴女様にトムスカナ伯爵家と甥とその実家のバサト子爵家、他にも今回の討伐で責任があると思われる者の今後の処遇を決めて頂きたいのですが」
「えっ!?」
「神子からそのように指示されておりまして」
えーっ、囮と任命責任のある伯爵だけじゃなくて!?
そんな責任の重いことを丸々任されても困るんですけどー!!




