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53 (キース視点)メリアージュ嬢

神殿から出た後、無意識にメリアージュ嬢に敬愛の動作を取ってハッとした。今までだって、この動作を取ったことは沢山あるが、こんなに自然に体が動いたのは初めてだ。

いつもは、今この動作をするべきだろう、と思って意識してやっている。


ちょっと気恥ずかしく思えて、挨拶をすると直ぐに踵を返してしまった。しばらく歩いてから、ここは見送るべきだったのでは?と思い至り、引き返す。丁度、メリアージュ嬢が魔獸に飛び乗ったのが目に入った。

‥‥認識出来たのはそこまでで次の瞬間‥‥消えた。遅れて風圧が届き、体がよろけた。

今のは何だ?

辺りを見回すが、若干の砂埃が舞う以外何もない。分かっているのに頭が理解を拒絶する。


呆然としたが、次第に笑いがこみ上げてきた。

アーッハッハッハッハッ

と自分でも驚くような笑い方を大きな声でしてしまう。笑い過ぎてお腹が痛いし、涙が出てきた。

何とまあ奇想天外な人だろう。


魔力がないと思っていたら魔力制御の賜物で結構強い魔力を持ってるし、実は魔力制御の開発者だ。使役している魔獸に驚くほど懐かれているし、素材採取はちゃっかりこなしているし、外見に反して健啖家だ。


それに、神罰×印事件の真相が分かった時だって直ぐに納得していた。まるで初めから分かっていたかのようだった。混乱を表情に出さないようにするので精一杯だった自分とは器が違う。自分たちが今までしていたこと全てが間違った情報の上に築かれていたという衝撃は言葉では言い表せなかった。


そして、さっきのあの消えたかのようなスピード。いくら速いといっても速すぎるだろう。

ぶふっと吹き出してしまう。

目の前から忽然と消えた彼女と、遅れてきた風圧と、茫然とした間抜けな自分を思うとどうしても笑ってしまう。


おまけに、御神像から光が降り注ぐなんてどう見ても特別な存在だ。

「あーあ、参ったなぁ」

御神像の御手から光が溢れて降り注いだ光景はとても美しかった。それを受けつつ、自身も光を纏っていたメリアージュ嬢も。まるで中央神殿にある"神託"の天井画が再現されているようだった。


そもそも神託の場に居合わせることが許される人間は神子に認められた数人のみ。神官長クラスであってもほとんどの者は経験がないと聞いている。あのように御神像から光が降り注ぐことが本当に起こるのだと驚いた。神の実在をまざまざと感じることになろうとは‥‥居合わせたのは何たる僥幸。


神官長を制して先に課題の調査をすることにしたのも、彼女を周囲から隠そうと咄嗟にしてしまったからだがそうしておいて良かったと思う。神官長から告げられた時のあの思い詰めた表情。少し間違った触れ方をすれば消えてしまいそうだった。

彼女がどのような立場に落ち着くか分からないが、先程の様子では特別な存在として敬われたらもの凄く嫌がりそうだ。ならば、心の裡でこっそり敬愛するに留めよう。


これから家に帰って報告して、ニコにもちょっと説明しておいた方がいいだろう。一週間後にはドリスデン領に着くようにしようと思うと忙しくなりそうだ。


それでもまあ‥‥まだ彼女と一緒に調査出来ると思うと心が浮き立つ。こんな時でもないと、彼女は異性を寄せ付けないから。

フフフと笑うと今度こそ家に向かった。さて、どう説明しようか‥‥。



家に帰ると、丁度父母とも在宅だったので、人払いして書斎に来てもらう。二人が揃ったので切り出した。


「今日、神殿で神子かもしれない存在が発見されました。その方が礼拝されると御神像の御手から光が降り注ぎ、ご自身も光を纏われたのです」


父も母も驚いて目を丸くしている。


「ただご本人は、自身を神子と認めるのを激しく拒絶されまして」


「まぁ」


「神官長が中央神殿の神子に問い合わせてくださるそうです」


「そうか‥‥神子がご健在でいらっしゃるのに新たに神子が現れたとすれば不思議なことだ。こちらで何かすることは?」


「今のところありません。中央の神子のご判断を仰ぐまでは口外しないよう願います。神殿で参拝者に目撃されているので噂になるかもしれませんが。


そして、神罰×印事件についてですが、真相と私たちの認識が驚くほど違います。今は真相を調べるために各領の神殿を回る段階ですが、いずれ、何時誰がねじ曲げたのか調べることになるでしょう。


そう言えば、メリアージュ嬢から、昨日のもてなしのお礼を伝えて欲しいと頼まれました。お土産を従業員の方たちがとても喜ばれたそうですよ」


「そうなの、良かったわ」


「そうそう、神子であることを拒絶しているご存在とはメリアージュ嬢のことなので、くれぐれも彼女に面倒ごとを持ち掛けないでくださいね。では、ニコに連絡を入れないといけないので」


えーっと言う母の声を背に書斎を出る。

母はメリアージュ嬢のことをかなり気に入っていたので、放っておくと嫁にくるよう画策しかねない。

彼女を煩わせることがないようにしないと、万一消えてしまったらどうするんだ。あのスピードで逃げられたら捕まえようがない。


さて、ニコにはどう伝えよう。取り敢えず緊急速達便で手紙を送るか。


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