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40 (マリーローズ視点)ブランデル兄妹

兄の視線が煩い。


妹のマリーローズは溜め息を吐くと流し目を送った。言いたいことがあるならどうぞ。


「分かってはいるがズルくないか」

「分かっているなら、分かるでしょう」


切り返すとムゥッとしている。まあ、一言言いたい気持ちも分かるので聞いてあげる。


「メリアージュ嬢は、いつこの魔力制御の訓練方法を編み出したんだ?こんな‥‥今までの訓練方法が児戯に思える」


魔力制御を試みながら兄が問いかける。魔力が外に漏れてるわねぇ。まあ、魔力が多いほど押し込めるのが大変だから仕方ないけど。


「さあ、いつだったかしら?

最初は、メリの魔力が微弱になっていたものだから、体調が悪いのかと思っていたわ。侯爵家が商会を立ち上げて忙しくしていたし、王子とのランチの時だけ来て直ぐに帰っていたわね。どことなく焦っているようにも思えたし、顔色悪くしていることもあったわ。でも、その頃はまだ今よりは遠慮があったから、引き止めてまで聞けなかったのよ。

でもある日、メリの魔力が完全に感じられなかったのよ。余りに驚いて、病気なら言って欲しい、水臭いじゃないの、と三人で詰め寄ってしまったわ。

それで、病気じゃなくて魔力コントロールの訓練をしているのだと言って、他言しないことを約束に魔力制御の方法を教えてくれたのよ。万一に備えて、逃げられるようにしておくのよって、とても真剣な顔で言ってたわ。

メリは何かを警戒してそれに備えている。そしてそれは私たちにも関係があるかもしれない、そう感じたわ」


考え込んでいる兄に釘をさす。


「メリに手を出すのはおやめなさい。損の方が大きくなるわよ」


「でも、得難い人材だ。がっちり引き込み手元に置きたい」


「だからよ。メリが魔力制御を開発した由縁は聞いたでしょう?

万一の場合、逃げるため、なのよ。囲い込みにかかったら、逃げるわよ。

そして、それを止められる人は‥‥思い付かないわねぇ」


何せオクジ山の魔獸をサックリ倒せる仮面の騎士だからねぇ‥‥。

マリーローズは遠い目をした。あの魔獸、SランクよりのAランクだったって話よねぇ。


「彼女はどれだけ強いんだ‥‥」


「全力で戦ってるところは見たことがないわ。ベラとの鍛練では細かな魔力制御に留意してるわね」


ベラは、戦いが常に身近にある辺境伯のご令嬢。騎士になるつもりで鍛えていたから元々かなり強かった。

王子妃が決まれば妃専属の護衛をするつもりらしく、鍛練を怠ってない。

自分が王子妃に選ばれるとは全く思ってない。選ばれれば受け入れるんだろうけど。


最初に二人で鍛練を始めた頃はベラが優勢だったはず。けど、いつの間にか逆転していた。今ではベラを如何に傷つけずに相手をするかに苦心してるように見える。それにベラが強くなれるように導いているように見える。魔力制御を使った戦い方の手本を見せているようで。

ベラも桁違いに強くなったけど、メリのあれは‥‥ねぇ。


ベラは魔力を十全に駆使すれば、きっと騎士団長より強い。メリとの約束もあるし、ベラも何となく感じるものがあるのか実力は隠しているけど。

メリはそのベラを軽くいなしているのに、更に強さを求めているんだから。

何かに備えて、メリが必死に強くなろうとしているのは分かってた。前世の話を聞いて一部納得したけど、それだけじゃない気がする。魔力制御を教えてしまったと分かった時の狼狽ぶりが尋常じゃなかった。


念のため、兄に再び注意する。


「メリは放って置くことよ。そうすれば、勝手に守り、勝手に発展させていくわ。侯爵家の商会は、侯爵家に利益を生んだだけではなく、商業全体を活性化し、国の税収を増やし、慈善事業で多くの民を救い上げているわ。わざわざ台無しにすることないでしょう?」


兄は無言だ。

有能な人材を手元に置きたがるからね。普通なら公爵家嫡男に認められ、重用されることは喜ぶべきことなんだろうけど、相手が悪い。特に、前世の話を打ち明けられた今では‥‥囲い込みは最も悪手だと分かる。それに加えて何かある。


諦めて欲しいものだ。

メリとの付き合いは末永く続けたい。姿を隠してしまうようなことになって欲しくはない。



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