28 (王子視点)これはプリシラ嬢?
「あ、戻ってきたね」
キースの声に顔を上げると、和気藹々と女性陣が帰ってきた。本当に仲がいいんだよね。
良いことだ、見ていて和む。
皆、妃候補として申し分無いが、妃になることに執着してない。だからこそ、妃が決まれば、確執なく補佐にまわってくれる。というか、表には出さないが、妃になるのを嫌がってるのもいる。
若干傷付くんだが‥‥。
でも、いざ王子妃という役目が回って来たのならば粛々として受け入れるんだろう。
‥‥受け入れてくれるよな?ちょっと自信がない。
その場合少ないプライベートの時間が安らげないものになりそうだ。公務なら問題ないが‥‥いや、公務であっても、殺伐とし過ぎるか?
兎も角、男としてはちょっと切ないが、今の時点ではこのさっぱりとした距離感は好ましい。王子妃に執着するようなら、このメンバーに入れないから当然だが。
王子妃候補として、身分能力資質に問題がないご令嬢は他にもいた。彼女たちは、王子妃そのものには執着してない。だが、この容姿、とくに顔が好きすぎるのだ。見える所にいれば、ぼおっとしてうっとり眺めているだけになってしまい、仕事が進まない。
本人たちも
「ニコライ王子のお側に侍ると、あまりの麗しさに思考がなくなるのですわ。残念ながら、とてもお近くでお役に立てるとは思えません。麗しきは、遠くにありて眺めるもの、ですわ」
と言って王子妃候補を辞退している。そして、いつの間にかファンクラブを結成していた。
その他のご令嬢は、相応しくない、と判定されていて、まず近寄ることがない。側近候補、王子妃候補、護衛、ファンクラブにもれなく退けられる。
ところで、プリシラ嬢がいない。プリシラ嬢ではなく、何ともかっちりした印象の眼鏡のご令嬢がいる。面識のないご令嬢だ。
「やあ、凄い技術だね」
感心したようにキースが言った。
「お褒めいただき光栄です。よくお分かりですね」
そのご令嬢は意外そうな顔をして、軽く礼をした。女性陣もちょっと驚いて、感心したようにキースを見ている。
「何だ?」(カイゼリム)
「ところでプリシラ嬢は?」(エリオン)
「あのご令嬢は一人で放っておいたら危険だろう」(ウィロス)
それを聞いた女性陣は、顔を見合わせて笑っている。
何なんだ一体。
「ジャーン、こちらにおられるご令嬢をどなたと心得る。畏れ多くも、変装の達人、プリシラ様であらせられるぞ」
シャルロッテがふざけて言うと、キース以外は目を見開いた。
えっ、全くの別人としか思えないんだが。
「このような格好で失礼いたします。
王子殿下方に初めてお会いするに当たり、変装していては誤解を生むかと思いまして、先程は素でご挨拶させていただきました。
ご覧いただいたように、周りへの影響が大きいため、通常は姿を変えております。また、一時的とはいえ、このグループに編入することで、様々な理由で目を付けられる可能性が高いと思われます。それを鑑み、時折装いを変えていく予定でおります。ご許可いただけるでしょうか?」
プリシラ嬢だというご令嬢に請われて了承する。
‥‥問題が解決して良かった。内心ではどう対策したものか頭を抱えていた。大きなトラブルを呼び込むこと必須に思われたから。
それにしても、声まで違うな。どうなってる?本当にプリシラ嬢か?もしや全くの別人をプリシラ嬢と言って偽ったりしてないか?‥‥いや、キースは分かっていたようだったから、本物のプリシラ嬢なんだろう。何故キースは分かるんだ?
でも、まあ、自衛手段を持っていたことに安堵した。放っておけば、傾国しかねない。
「それにしても凄いな、どうやってんだ」
カイゼリムが顔を近付けてジロジロと覗き込む。
「ちょっと、触ってみてもいいか?」
ドン引きである。ご令嬢に触るなんて、破廉恥な。
「カイ!」
咎めると、手を上に挙げて距離をとったが、何を言うんだ全く。
「その技術、取り入れたいな」
ウィロスがじっとり観察しながら言ってる。
「この技術は登録された者にしか使用許可が降りておりません。悪用されたら大変ですから。宰相閣下にご相談なさってください」
宰相案件か‥‥これは宰相からの課題か?
「それでは、宰相閣下からの課題をお知らせします」
やっぱりか!