20 私の前世の死因
「茫然としましたが、彼との生活に疲れきっていたので、承諾しました。もう彼の近くにいるのが嫌で嫌で、出来るだけ早く出て行くつもりでした。
彼は『もう5ヵ月なんだ。安定期の内に一緒に暮らし始めたいから、なるべく早く出てほしい』と言って、離婚届を渡してきました。『彼女、俺が結婚してるからって遠慮しちゃってさ。中々言い出せなかったんだって。それで‥‥』彼の言葉は続いていましたが、私は聞き流して、躊躇わずに記入して突っ返すと、そのまま家を出ました。
心配かけたくなくて親には黙っていましたが、流石に事の次第を話しました。その時の私は、彼から離れたい、としか思っていなかったのです。親に援助してもらい、彼に会う確率がなさそうな地域に引っ越したのです。
そこで取り急ぎ、単発やアルバイトから仕事をはじめました。今まで働いてなかったので、社会の波はとても厳しく感じました。ちょっと彼の大変さが分かった気がしました。
それでも、定職を見つけ、自分一人でどうにか生きていけるようになり、生活も安定してきました。
そんな時、仕事仲間に乙女ゲームを勧められたのです。二次元は裏切らないから、と。
彼女も離婚していたので話が合ったのです」
私は一旦話しを止めた。
「その、あちら独特の言葉があるので、分かりにくいと思いますが」
「もとより疑っておりませんけれど、より真実味が増しますわねぇ」
マリーローズが言うと、他の皆も頷きます。
「仕事のことは何となく分かるけど、乙女ゲームと二次元って何?」
シャルロッテが分かる?とばかりに皆の顔を見ています。
「乙女ゲームっていうのは、物語の主人公が女性で、色々な素敵な男性と知り合い、仲を深めて、最終的には相思相愛になるのを目的とした娯楽なんだけど。物語の中の疑似恋愛って言うのかな?選択肢が複数あって、こっちを選ぶとこの人と仲良くなれる、そっちを選ぶと別な人と、という感じで楽しむの。
二次元って言うのは、音声付きの動く絵だと思ってちょうだい」
分かる?と聞くけど、今一つピンとこないみたい。うーん、説明が難しい。色々例えを出して、何となくだが分かってもらえた。
「それで、その乙女ゲームを始めたら、攻略対象のセリフが甘甘だった頃の離婚した夫によく似ていたのよ。それでついカッとなって、それが入ってた箱を力一杯投げちゃって。
狭い部屋だったから壁で跳ね返って、自分に返って来てね、避けようとしたらよろけて棚にぶつかって、ガラスの置物が落ちてきて頭に衝撃が。
ここで前世の記憶は終わってるのよ。多分それで打ち所が悪くて死んだんだと思うんだけどね」
私の言葉に皆酢を飲んだような顔をしている。
「ねっ、たいしたことないでしょう?」
私は肩を竦めた。
「いえ、十分悲劇だと思います‥‥」
と、プリシラ。
「身勝手な男だな。打ち明けてくれて嬉しい」
と、イザベラ。
「うっ、悲しすぎます」
と、シャルロッテ。
「メリアージュ様が恋愛を拒否している理由が分かりましたわ。以前は恋愛事に興味が薄いぐらいの感じでしたのに、ある時を境に拒絶されるようになりましたわよねぇ」
う、マリーローズは鋭い。でも、流石のマリーローズでも、ここがその乙女ゲームの世界で自分達も登場人物であることは分かるまい。
「私の記憶が確かなら、1年生の9月頃よねぇ?」




