第61話 あなたの過去とご姉妹
解説バス子と、人型バス子と、スク水リバーがいます。
二対一でリバーはピンチでしょう。
……リバー、ピンチに陥ってばかりです。
人型バス子はあなたから少し離れました。
スク水を着こなすあなたと向き合い、ロングドレスの裾を軽くつまんで頭を下げます。
「ご紹介が遅れました。貴女の淫魔人形のバス子、人型仕様でございます。趣味は、貴女が魔王を処刑するのをお手伝いすることです」
「それは趣味じゃない!」
「悪趣味です」
「そこは合ってるかもしんない!」
「ブラックリバース様の本当のお名前は、八意帝護様。まるで男性のようなお名前は、貴女のお父上が名づけたのですが、貴女はそのお名前を好ましく思っていません」
「私は女だからね。なんで唐突にそんな話を?」
「貴女の昔のお話をさせて頂くからです」
人型バス子は本棚のところまで歩いて一冊の本を手に取ります。あなたの前に戻り、本を開きました。
「貴女のお父様は、男性が生まれることを強く望んでいました。そのため、生まれる子に対して、男性向けのお名前しか考えていなかったのです」
「なんか私の出生の話になってる!」
あなたのことは、……色々と知っています。
「その本に書いてあるの?」
「いいえ。こちらには貴女が異世界に到着してからのイベント画像が載っています」
「違うのかっ!」
こちらの本の中身をお見せすると、あなたは真っ赤になりました。
開かれたページには、あなたが牢獄内の洋式簡易便器でお花を摘むシーンや、お池の横で脱衣して白い下着姿になるシーンがあったのです。
「なんでそんな写真があるのッ?」
「ステータス画面でもご確認出来ますよ」
「そんなもん確認したくない!」
「拡大も出来ます」
「もっとやだ!」
お話を戻しましょう。
バス子は本を閉じて両手で抱き、あなたのほうを見ます。
「年下の再婚相手だった貴女のお母様は、男性のようなお名前に反対することが出来ませんでした。そのため、貴女は帝護の名が与えられました。かつて隆盛を極めた大英“帝”国のような存在を、一人で“護”れるぐらいの立派な男になるように、という願いが込められています」
「いや、女の子が生まれたんだから男とかもう諦めろよって、その話を聞いた時にはいっつも言ってたなー」
補足しますと、諦めるの字には帝が入ります。また、護と同じく部首は『ごんべん』になっています。
「なお、お父様が最初の奥様と離婚をされたのは、息子を熱望したお父様の意に反して娘を授かったことで、辛く当たってしまったからです。最初の奥様と娘さんは、お父様の元から去りました。貴女が生まれる一年ほど前のことです。貴女が生まれた時は二度目だったため、お父様は貴女のお母様にご不満を強く述べたりはしませんでした」
「娘に男っぽい名前はつけたけどね」
ごもっともです。
「貴女の母親違いの姉は、幼い頃に、貴女と何度か会ったことがあります。覚えていませんか?」
「……もしかして、バス子ちゃんって、私のお姉ちゃんなの?」
「違います」
人型バス子は即答です。
「また違うのか!」
あなたには、バス子は異世界道具の淫魔人形だとご説明したではありませんか。
「じゃあなんで今の話したのっ? 流れ的におかしいでしょ!」
「貴女が男性のようなお名前なのは、お父上に原因がありますので、貴女は全然お気にされなくても大丈夫ですよ、ということをお伝えしたかったからです」
「回りくどい! 姉の話はなんだったの!」
「単純に、覚えているかどうかをお聞きしただけですよ。どんなにバス子が貴女に尽くしても、母親違いの姉というだけでバス子よりも愛されていたら、腹立たしいと思いませんか?」
「単なる個人的な独占欲だった!」
では、姉の話は、これでおしまいにします。
「する必要性がなかった気もする……」
「ここからが重要です。……貴女には、妹さんが二人います」
「一人だけど!」
「貴女は間違えてばかりです」
「これは間違えてないよ! そんなことまで忘れてたら自分の精神状態を疑うよ! 絶対に夢絵ちゃん一人だって!」
「あら、バス子がこれまで聞いたことのないお名前が出て来ましたね」
「でも私のことに詳しいバス子ちゃんなら、知ってる情報でしょっ?」
「はい」
必死なあなたのご主張の通り、あなたの直接の妹さんは、八意夢絵様お一人です。『むえ』という夢の絵と書くお名前は、まるでサキュバスのようですね。女子高生的に申し上げますと……。
「――まじむかつく! です」
「サキュバスの女子高生に対する偏見が発覚しちゃった!」
「ですが、バス子は貴女を愛していますので、貴女の妹さんのことも許してあげます」
「なぜそうなったのか分かんないけど上から目線だ!」
あなたの妹さんは、あなたよりも一歳年下になります。今頃、元の世界であなたがいなくなったことを悲しんでおられるでしょう。ふふっ。
「喜んでないかバス子ちゃん!」
「そして、もう一人の妹さんは、……貴女の前にいる、このバス子ですよ」
「いやいやいや、可能性ありっぽかった姉は否定しといて妹を名乗るのはおかしい! 淫魔人形って言ってたじゃん!」
「確かにそうでしょう。ですが、貴女はバス子でもあり、バス子は貴女でもあるのです。つまり、双子と言っても差し支えがない存在です」
「淫魔人形なら、血のつながりはないでしょ」
「ですが、貴女とバス子は、双子のように見えませんか?」
バス子は本をテーブルに置いてから、あなたに詰め寄ります。
「双子だとすれば、貴女よりも後に誕生したバス子が、妹ということになります」
「むちゃくちゃな理論だ……」
あなたは絶対に気づくでしょう。
バス子の童顔は、あなたとほとんど同じです。
瞳は、あなたの黒色に対し、緑色。
それほど長くはない黒い髪を一つにまとめたあなたと、背中まで垂れる三つ編みにした薄緑の髪のバス子。
背丈は同じぐらいに高く、絶望感さえ漂う胸部の主張の無さも変わりません。
「ちょっと近づき過ぎじゃない?」
「はい。口づけをしますか?」
「しないよ」
「では、唇の触れ合いをしますか?」
「しないってば!」
「……残念です」
バス子は後ろに下がりました。
思わせぶりなバス子でした。
現実で姉や妹のいる方は、二次元の姉や妹で萌えないらしいですが、実際はどうなのでしょう?
かわいければ、萌えるんじゃないかと思います。
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございます。




