第52話 胸部から出された下位フレイト町民認定証
新キャラの魔物が登場します。
とある胸部からは、認定証も登場します。
冒険者ギルドがある大通りから横道に入り、夕刻の町の中を進むこと数分、扉の札が『開店中』になったままのカフェに到着しました。
先頭のハエトリさんが木製の扉を開け、上部にくくりつけてあった鈴が鳴ります。
「どうぞ」
ハエトリさんが扉を開けて下さっている間に、あなた達はお店の中に入りました。
店内のテーブルの横では、――人間以上に巨大な鳥さんが立っています。
「いらっしゃいませー、って、ハエトリさんのお客さんですかー?」
濃い茶色で丸っこい鳥さんのお声は、信じられないことに美少女のようでした。
「あっ、はい。今夜、こちらで泊めてもらうことになった、リバーという者です」
ご丁寧にあなたは名乗り、ハエトリさんのほうを向きました。
「ハエトリさん、こちらの鳥さんは従業員さんですか?」
「いいえ。うちの常連さんで、隣の銀行を運営している、うずらさんですよ」
「私はハエトリさんのお友達で、『しらさぎ銀行』のうずらです。お金が借りたい時はお気軽にご利用下さいねー」
「いや、詐欺をしてそうな銀行名なので遠慮しておきます」
「よく言われるのですよねぇ、名前がしら“さぎ”銀行ですから。ですが、うちは公正な経営をしていますよー。取引相手も大変満足しておりまーす」
「経営の話よりも、うずらさんが魔物なのかどうかが気になるんですけど」
「魔物なんて人聞きがわるーい。私、立派なフレイト町民ですよー、魔物だけど」
「魔物じゃん!」
「リバー様。やはり、こちらでお世話になるのは避けたほうが良いのではないかと」
不審そうな眼差しのミリーナさんがあなたに助言しました。
「そんなー、ひっどーい! 私もハエトリさんも、善良なんですよおー! 人間どもを食べたり、つついたりはしませんしー」
「リバーさん達は知らないかもしれませんが、フレイトでは首都や他の町と違って、私達のような良い魔物は、人間どもと上手く共存をしています。きちんと人間どもに多額の税金を納めているからではありますけどね」
「うずらさんもハエトリさんも人間どもって言ってる辺り、上手く行ってないような気が……」
ハエトリさんはお洋服の襟を左手で引っ張り、右手を突っ込みます。
巨乳の中からでしょうか、カードのようなものを取り出しました。
「リバーさんにミリーナさん、こちらをご覧下さい。私の『下位フレイト町民認定証』です。多額の寄付が伴いますが、永住権を獲得して二十五年以上こちらの町に住んでいると、善良な魔物のみに、人間どもよりも少々下の人権が与えられるのです」
「二十五年も暮らしててその扱いってヒドくないですか?」
「ええ。それでも、この国では良い扱いのほうです。魔物の私がお店を開いていられるのですからね」
首都ロンドニアでは例え魔物が百年定住しても、認定証さえも与えられません。
魔物が首都にお店を開けば、開店直後に戦場と化すでしょう。最初の一時間で閉店に追い込まれても、文句は言えないのです。
「あいかわらずこの国最低だけど、もう逆に安心出来るぐらいの低クオリティだよね」
パスちゃんもこちらの町で永住権を得てから二十五年以上住めば、頭の差別プレートを外せますよ。
「そんな先のこと、今は考えたくないし、さり気なく差別プレートとか言わないでよ」
失礼いたしました。
「最新のフレイト町民意識調査アンケートによると、住んでいる魔物に対して、約五割の町民が気に入らないとの結果が出ていますよー」
うずらさんは客観的な調査結果を、美少女声であなたにお伝えします。
「町の調査なのに、気に入らないって表現を使ってるんですか……」
「そうなのですよー。その結果だけだと、魔物が嫌われているみたいですよねー。でもぉー、二十五年以上住んでいる魔物と初対面の町の人間、どちらが信用出来ないかという問いでは、魔物が二割、初対面の町の人間が七割と逆転しているのです。ほらぁ、永住する魔物は受け入れられていますでしょ~う?」
「それ、単に町民の信用が無いだけな気がします」
「リバーちゃんもそう思いますよね~。今から私と一緒に、日が暮れているのにまだ外で遊んでいる人間のクソガキどもをつついてきませんかぁ?」
「人間はつつかないって、言ってましたよね?」
「……う。冗談ずら~」
そうおっしゃるうずらさんの瞳は、笑っていませんでした。
「今の間と急に出て来た方言が怖い……」
「確か、その問いの残りの一割の回答は、知らない、分からない、答えたくない、だったと思います」
ハエトリさんが補足します。
「答えたくないって答えてませんかね?」
「答えたくもないのに調査に協力する。それが愚かな人間……と言いたいところですが、調査には私達のような魔物も含まれているため、実際は定かではありません」
アンケート調査にご参加出来るぐらいなのですから、こちらの町の魔物さんは優遇されているのですよ。
「そうかなぁ……」
「という理由で、この認定証が私の二十五年以上を保証しています。ミリーナさん、ご納得して頂けましたか?」
「……はい」
巨乳の前でカードが掲げられているため、ミリーナさんはハエトリさんの胸部に屈したようにも思えました。
「ところで、ハエトリさんっていくつなんですか?」
二十五年以上は保証されています。
「そうですねぇ。十七歳と答えても、三千五百歳と答えても、芸がないでしょうから……」
「十七じゃ認定の保証がなくなりますよ」
「リバーさんがいくつに思うのかに委ねるということで、『リバーさん歳』としましょう」
三歳とも聞こえそうです!
「私はリバー山菜でよろしいでしょうか?」
「山菜っ?」
あなたはハエトリさんに近寄られ、下から上目遣いを向けられます。育ち過ぎたお胸が原因で年上の美女に見えますが、整ったお顔だけなら十代を名乗ってもいけそうですね。
「じゃあ、ハエトリさんにリバーちゃん。私はお邪魔なようなので帰りますねー。今後とも、しらさぎ銀行をごひいきに。ではー」
「あっ、うずらさん。お留守番、ありがとうございました」
ハエトリさんが軽く頭を下げるだけで、すごい部分が揺れてしまいます。
「いえいえー」
うずらさんはぴょこぴょことお尻を振りながら歩いて、扉の前で止まりました。
どう巨体で通り抜けるのかと、あなたは興味深そうに見ていました。
うずらさんは白い光とともに小柄な人の形になったのですが、扉を通過したらまたうずらさん姿に戻り、そのまま去って行ったのです。
「それでは改めまして。私のお店、『カフェ・ハエリグ』へようこそ」
ハエトリグモさんっぽいお名前でした。
銀行員のうずらさん登場回でした。という説明では、不足が過ぎるかもしれないですね。
素直に人間ども、と言える魔物さん達に萌えます。
今回も最後までお読み頂き、ありがとうございました。




