第43話 暴力的な彼女
冒険者ギルドにやって来たリバー/バス子、パスちゃん、ミリーナです。
あなた達は冒険者ギルドの施設内にいます。中に入るのは、あなたも初めてでしたね。
剣士さんや魔術師さんが何名もいらっしゃるこちらの空間は、まさにあなたの憧れるファンタジーでしょう。床は木製で、内装や照明も酒場のような洋風ですが、漢字で『安全第一』と書かれた掛け軸も飾ってあったりします。
今は、カウンターでミリーナさんがお話をつけてくれている最中でした。今回かかる費用は、ミリーナさんが全てご負担をして下さります。あなたはお金を所持していませんので、助かりましたね。
「お金なんだけどさ、バス子ちゃんのあのグミを売れば、まとまったお金になったんじゃない? ミリーナさんの言う通りなら、価値が高いみたいだし」
何個かを商業ギルドで売るのなら問題ないでしょうが、たくさんの数は作れません。それに、あなたがターボポーション級の回復薬をいくつも持っていると知られたら、悪い人間に捕まってしまう危険性があります。
「悪い人間、この世界にはいくらでもいそうだからなー。納得だよ」
ただ、昨晩はどこかで一粒を売却してお金に換えていれば、野宿を回避出来たのではないかと、今になっては後悔しています。すみませんでした。
「……ううん、図々しいことを言っちゃって、私のほうもごめんなさい。いつも助けてもらってるんだから、あんまりバス子ちゃんに頼るのも良くないよね。今後もそういうことはしない方針で行こう」
分かりました。ですが、欲しい時はいつでもおっしゃって下さい。あなたの魔力があれば、少しは出せますよ。……バス子の妖しい角から。
「でも、バスになってた時は正面から出してたよね?」
あの時はバス子バスだったので、しかたがなかったのです。
「リバー様。あちらのカウンターにどうぞ」
ご準備が整ったようで、ミリーナさんがあなたを呼びに来ました。ギルド内のソファに座っていたあなたとパスちゃんは立ち上がります。
あなたが向かったカウンター越しには、お仕事の出来そうな、二十代ぐらいの美女職員さんがいました。眼鏡をつけて黒いギルドの制服に身を包んだ職員さんは、水晶玉をご用意しています。
職員さんが両手で微量の魔力を発して、水晶玉に過去の映像を映し出しました。
巨大なタコさん姿のパスちゃんと戦うあなた達冒険者パーティー。
ミリーナさんと別れた後に登場したパスちゃんが幼女になる場面。
遺跡内で泣いてしまうパスちゃんの想いを受け受け止めるあなた。
森の中で幼女姿のパスちゃんと手をつないで歩くあなたのご様子。
順々に、流れました。
水晶の映像は真実であり、魔物のパスちゃんがあなたの軍門に下ったことは、第三者から見ても明らかでしょう。
長い茶髪を後ろで二つに束ねた職員さんは、水晶からあなたへと視線を移します。彼女の表情は良く言えば冷静、悪く言えば冷血でした。胸部は、それなりに大きいです。
「ランドクラーケン討伐の依頼でしたが、ランドクラーケンよりも討伐が困難なロードオクトパスの脅威を取り除けたのは、報奨を与えるに相応しい成果と言えるでしょう。ですが、その魔物は本当にあなたの命令を絶対に逆らわない下僕となったのですか? 登録をするのであれば、この場で安全性を証明をして下さい」
職員さんにそう告げられてから、あなたとパスちゃんは向かい合います。
「パスちゃん、お手」
「はい、です」
あなたがお手を出し、パスちゃんがお手をのせました。微笑ましい光景です。
「これでどうですか?」
「その程度の言語が理解出来たところで、人間を襲わないとは限りません」
あなたに対し、職員さんは難色を示します。
「えぇーと……。パスちゃんは、ホントにすごくいい子なんですよ。自分から人間を襲ったりなんてしません。むしろ人間のほうが膝蹴りばっかりしてきて恐ろしいですよ」
「それは否定しようがないですが、リバー様は異世界から召喚された勇者様の一人です。勇者様のお言葉は信じるべきではないでしょうか」
ミリーナさんも口添えをします。
「勇者と言っても、我が国に反して牢獄行きになった魔王系の勇者ですよね? ブラックリバースさん?」
勇者様は召喚された時点で自動的に冒険者ギルドに登録されているため、あなたのことが知られていても不思議ではありません。
「それに先ほどの映像でも、この魔物が人間を襲っていましたが」
「確かにそうですけど、あれは先にスターリングさん……あの映像に映ってた騎士みたいな女の人ですけど、そのスターリングさんやミリーナさんが攻撃をしたから、しかたなくって感じですよ。観て分からなかったんですか?」
「貴女の言い分では証明になりませんよ。人間は魔物に攻撃してもなんら罪にはなりませんが、魔物が人間を攻撃したら、人間側に非があろうと罪に問えます」
あなたと職員さんの弁論では、あなたが不利でした。
「妾は、上様の忠実なしもべになったので、もう人間を襲ったりはしないのです」
あなたを擁護するようにパスちゃんが主張します。
「そうなんですか、なら信じましょう。証明出来たら、ですけどね」
職員さんは軽々と跳躍してカウンターを飛び越え、――パスちゃんに鋭い膝蹴りを食らわせました!
「きゃっ!」
悲鳴を上げたのは、あなたでした。
パスちゃんがおなかを押さえながら床に倒れてしまいます。
即座にあなたはしゃがみ込みました。
「大丈夫っ、パスちゃん!」
「痛いですが……、妾は、証明するのです……っ」
「なんてことすんだよアンタッ!」
この状況で穏やかでいられるあなたではありません。口調を荒げたあなたは膝蹴りをした張本人に殴りかかろうとしましたが、後ろのミリーナさんに妨げられます。
「ここはどうか我慢して下さいリバー様!」
「でもッ!」
「この魔物が本当に安全なら、蹴った私に反撃をしないはずですが」
腕組みをしながら、悪い人間はパスちゃんを見下します。
しばらく経っても、パスちゃんは必死で痛みに耐えていました。もし、人間を敵視する魔物だったならば、すぐさま本性を現して、職員さんに報復を加えていたことでしょう。
あなたはパスちゃんの意志を汲んで、ずっと見守り続けます。
時間の経過が、実に長く感じられました。
平気で膝蹴りを食らわせてくる民度の低いベールカー国民でした。
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございます。




