第4話 さきゅばすの、ふぃぎゅあの、すかーとのなか、楽園
メインヒロインのお人形サキュバスが、勇者リバーの前に姿を現します。
「……あの、まだいるのかな? もう、喋っていいよ」
はい。
「さっきはひどいこと言ってごめんなさい。私、冷静じゃなかった」
あなたは数分前のことを謝罪します。ですが、あなたの置かれた状況を考えれば、当然の反応でしょう。
こちらこそ、申しわけありませんでした。
「異世界の人達の中で私のことを気遣ってくれたのは、あなただけだった。だから、私はそういう人を信じたい。あなたは、私の味方だと信じていいんだよね?」
はい。もちろんでございます。
「それじゃあ、まずは名前を教えて」
マクシー・ミ・メトロ・サキュバス子と言います。
「……なんかめちゃくちゃなんだけど、なんて呼べばいい?」
メインヒロインちゃんとお呼び下さい。
「いきなりずうずうしい!」
では、バス子で。
「その名前の最後は漢字? ヨーロッパ系の悪魔なのに子がつくのが意味分かんないけど、バス子さんって呼ばせてもらうね。バス子さんはサキュバスなの?」
はい。正確には、すでに申し上げました通り、淫魔人形、つまり、サキュバスのお人形でございます。
サキュバスとは、夢の中で男性を誘惑をし、生気を奪い取る女性悪魔のことです。人間にはない、角や翼、尻尾があります。
そのサキュバスを象ったお人形が、あなたがこちらの世界に召喚された際に与えられた、異世界道具なのでした。他のクラスメイトの方々も、それぞれお一つ、異世界道具を手にしているはずです。
「サキュバスというと、バス子さんは……肌色成分が多めなのかなーって、思うんだけど、その辺どうなの?」
非常に心苦しいのですが、あなたのご期待には添えません。
「え、まじ?」
しかしながら、あなたのために、淫魔人形のマクシー・ミ・メトロ・サキュバス子を具現化いたしましょう。こちらです。
緑色の光が収束された後、淫魔人形が出現しました。
「おお! 魔法で出たっぽい!」
お人形の全高は二十五センチほどで、足元には円形状で薄緑色一色の台座があります。見た目は、あなたの世界における七分の一スケールのフィギュアにそっくりでしょう。
「うん、これは間違いなくスケールフィギュアだ」
非常に精巧な造形で、少なくとも二万ビルの価値はあるはずです。
すでに王様からご説明はありましたが、ビルとは、こちらの国の通貨単位となります。
一ビルとあなたの知る一円は、大体同じ価値でしょうか。
また、あなたの世界とは貨幣の種類が多少異なります。
五千ビル、千ビル、百ビルが紙幣で、五十ビルと十ビルと一ビルは貨幣となります。五千ビル紙幣には王様の肖像画が描かれていますので、見ないほうがよろしいでしょう。
「うん、あいつの顔なんか二度と見たくもない」
そうおっしゃるあなたは、バス子のスケールフィギュアの素晴らしい出来栄えに釘づけなのです。
「確かに、すごく高そうだね……。顔の出来も完璧だし、髪のグラデーションもばっちりだし、塗装もお金かかってるのが分かるレベル。……でもさ、ドレスを着た美少女フィギュアで、全然サキュバスっぽくないよね?」
そうなのでした。
あなたのご想像するサキュバスとは、まるで違うでしょう。
まず、一本の三つ編みにした長い薄緑色の髪の上端には、角が生えていません。
「角はあるんじゃなかったの?」
あります。
お人形の童顔のかわいい表情は、とても男性を誘惑するような女の顔には見えないはずです。薄い茶色を基調としたロングドレスは古風な味わいのもので、お肌の露出は非常に少なく、背中には翼もありません。
「翼もあるんじゃなかったっけ?」
あります。
両手を正面で重ねて微笑むこの像は、あなたには人間の少女にしか思えないのも無理はないでしょう。
「黒い尻尾はスカートの中に隠れているの?」
あります。
だからこそ、あなたはスカートを覗くべきです。
「……え?」
スカートの中には、夢と、真実がいっぱいです。
「いやいやいや、そんなことしないよ。牢屋の中でフィギュアのスカートの中を見たら、余計に罪悪感が増すでしょーよ。そもそも、私は変態じゃないからね」
そうですよね。直接フィギュアをお手にし、真下から見て頂く……というのは、同性のあなたには、とても難しいご注文でしたね。ならば、あなたの魔力を少しお借りします。
えーいっ!
「わっ!」
フィギュアを吹き飛ばして、横倒しにしました。
「えっ? 今ので壊れなかった?」
丈夫なので問題ありません。
これなら、ちょっと中を見てしまっても、さほど気に病むことはないです。
さあ、フィギュアのスカートを覗いて下さい!
「どうでもいいけど、いつの間にか呼びかたが人形からフィギュアになってるし」
下半身の辺りに、深緑色のものが……ありますよね?
「足の後ろ側?」
あなたはフィギュアをお手に取りました。
ふくらはぎの上部に、深緑色の小さな突起と小さめの翼が、上下に並んで生えているのが分かるでしょうか?
「あっ、ホントだ。角は分かりづらいけど、翼はちゃんと翼みたいになってるね」
それらが、バス子の角と翼なのです。
「生えてる場所が明らかに不自然なのはともかくとして、そんなとこに生えてたら、座ったりする時に邪魔じゃないの?」
角も翼も収納可能ですが、フィギュアの状態では、お座りの格好にはなれないので、問題はないのです。
あと、ご覧の通り、尻尾はお尻の上部から生えて垂れています。色は黒で、先端は台形でした。
と、ご説明している間にも、あなたはバス子の下着を眺めて、興奮しています。
「興奮してないって言ったら嘘になるけど、そんなにエロくはないよね」
あなたの正直な感想は、衝撃的でした。あなたのサキュバスがあなたに貶されて、とても悲しいです……。
「いや、侮辱するつもりじゃなくて、中がドロワーズだったから……」
そうですね。
バス子の下着は、白いドロワーズです。
お洋服に合わせた古風な下着のドロワーズは、太ももまでを覆う長さでした。
ドロワーズは下着の上に重ね履きすることもありますが、こちらのドロワーズは、じかに穿いていますよ? どうです? 興奮しましたか?
「……じゃあ、脱げるの?」
いいえ、現状、着脱不可です。
「ダメじゃん!」
あなたは変態じゃないとご自分でおっしゃっていても、いわゆるキャストオフと呼ばれる脱着機能がないと分かって、がっかりするのでした。あなたは世界の終焉を感じます。
「そこまでじゃないし!」
ああぁーん、あなたに下着を見られてしまって、とっても恥ずかしいですぅ~!
「見せたのアナタでしょう!」
それでは、サービスシーンは終了です。
フィギュアは消します。
これで、あなたにはバス子の容姿を知って頂けたかと思います。
「うん、まあね」
三つ編みでロングドレスでドロワーズ、際どいところに角と翼、しかもフィギュアと、かなり変なサキュバスを目指しました。サキュバスのバス子を今後もよろしくお願いします。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。




