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第17話 走る! 急いで戻って、今度は急いで向かいます!

制服で街の中を走り続ける黒髪のリバーは、萌え……でしょうか?

 あなたはスカート着用の制服姿で走りづらかったものの、なるべく迅速に、ビーバー級冒険者パーティーMGSの元へと戻りました。しかし、民営オークション会場のステージ裏手には、ミリーナさん以外はいませんでした。


 深緑色の三つ編みが特徴のミリーナさんは、あなたのご到着に気づきます。


「ごめんなさいっ、待ちましたか――」

「遅いッ!」

「ぎゃっ!」


 ミリーナさんがあなたのおなかに膝蹴りをしました!

 んーん今来たところー、なんて(なご)やかなセリフが彼女から返って来たりはしません。


「なっ、なんで蹴るの……ッ!」

 倒れたあなたが問いました。


「戻るのが遅過ぎたからに決まっているでしょうッ! 馬鹿じゃないの! アナタがちっとも戻って来なかったせいでグッティとスターリングさんはダンジョンへレベル上げに行っちゃったじゃない! なんで私が待ってなきゃいけないのよ!」

 どうやらミリーナさんは相当お怒りのようです。


「兵士の人よりも痛かったかもしれない……」

 あなたは肉体的なダメージに加えて、おとなしそうな印象の少女から蹴られるという精神的なショックも受けています。ミリーナさんの見た目が普通にかわいい女子ですので、膝蹴りを食らわせて来たという事実が信じられません。

 

 どうにか痛みを我慢して、あなたは立ち上がりました。


「着替えて来たのは良いにしても、防御力がなさそうな制服ね。魔力が込められているようでもなさそうだし……」

 高校生の制服が似合うあなたに対し、ミリーナさんは実用性一辺倒のご感想しか述べません。


 背の高いあなたと、頭一つ分ぐらい低いミリーナさん。横に並んで、残りのメンバーの帰りを待つことになります。


 あなたが痛みでお腹を押さえずに済むようになっても、ミリーナさんとは気まずいご関係のままでした。グッティさんとスターリングさんが戻って来るようなこともありません。


 耳に入るオークションの競りの声を騒々しく思いながらも、あなた達は待ち続けます。


「……あのっ。ミリーナさんは、冒険者になって長いんですか?」

 あなたは差し障りのなさそうなことをお聞きしました。膝蹴りをさも当然のようにおこなった彼女に話しかけるのは、かなりの勇気が必要だったことでしょう。


「ううん、半年ぐらい」


「そうなんですかぁ。……やっぱり最初の頃って、薬草集めとかゴブリン討伐とかですか?」

 あなたは冒険者が初期におこなうような定番の任務を挙げました。


「薬草の収集は何度もやったけど、ゴブリンは見た目が不気味で気持ち悪いから、他の魔物退治ね。スライムとか、スケルトンとか」


 スケルトンは、骨の魔物ですね。


「スケルトンも見た目が怖いような気もしますけど」

「魔物の中では、それほどでもないわよ。スケルトンなら私やグッティが使える聖魔法が効果あるし、レベル25のスターリングさんがいるから脅威にはならないわ」


「ミリーナさんはレベルいくつなんですか?」


「……レベル8」

 数値が低いのを恥じるかのように、ミリーナさんはお答えしました。


「わあ、すごいじゃないですか。私なんか、1ですよ」

「いち? アナタ、今まで何してきたの?」


「ええっと、牢屋暮らしが長くて……」

 あなたにとっては一週間の獄中生活ぐらいしか、こちらの世界で語ることがないのです。


「それじゃあ全然役に立ちそうもないじゃない!」

 ミリーナさんが再び不機嫌になったのは明らかでした。


「その……、きっと、そのうちレベルは上がりますよ。やっぱり、低いとまずいんですか?」

「当たり前でしょう? レベル1なら当然他の数値も低いのよ! それにまともな装備もつけてないみたいだし、足手まといにしかならないでしょ! だから私は身分も分からないような人材をオークションで落札するのなんて反対だったのに!」

 ミリーナさんは本音を隠さずに喋る性格のようです。


「わっ、私だって、仲間にしてもらったからには、頑張りますって!」

「レベル1で何が出来るって言うのよ?」


「……すみません。何も出来ませんね」

 あなたはお認めになりました。

「でも、レベル上げをすればいいんです!」


「レベル上げって、リバーはなんの武器を使用しているの?」


「武器……持ってないです」


「はぁ? 武器もないって、アナタ何を考えているのよッ!」

 物静かそうな三つ編みの少女に罵倒される、背の高いあなた。その構図は、実に奇妙です。


「そんなに怒らないで下さい。あっ、そうだ。ミリーナさんのを借してもらえませんか?」

「なんでアナタなんかに貸さないといけないのよ? 大切な武器を会ってすぐの元囚人に貸すと思う?」

 やはりあなたは囚人扱いでした。


「それもそうですよね……。ちなみに、ミリーナさんの武器ってなんですか?」


「私のは魔法剣よ」


「魔法剣かぁ、いいなー。なんか上位職っぽくて。私も魔法剣がほしい……」


「じゃあ、後でスターリングさんに返してもらうから、リバーのお金……三万千五百ビルで、今から装備を買って来てもいいわ」


「えっ? いいんですか?」


「どうせまだ二人は戻って来ないだろうしね。無防備な冒険者と戦場に向かうなんて、愚かなことこの上ない行為だから」


 あなたはミリーナさんからお札を受け取ります。五千ビルが六枚、千ビルが一枚、百ビルが五枚ありました。


「ありがとうございます! すぐに戻って来ます!」

 あなたは走り始めました。


 ミリーナさんと離れる際、再び逃げたりしないよう念を押されることはありませんでしたね。少しは信用を得たようで、バス子も嬉しいです。

「うん、そこはちょっとだけ良かった」


 あなたは目的のため、颯爽と疾走します。

ダークグリーンのロングヘアを左右で三つ編みにした、おとなしい印象の少女。こういうキャラクターって好きなのですが、この物語に登場するミリーナは外見に反して、主人公リバーに早くも膝蹴りをするような恐れ知らずです。例え相手がかわいい三つ編み少女でも、私は異世界で膝蹴りなんか食らいたくありません。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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