第16話 懐かしき制服、囚人服よさらば
ドライヤー回です。
おめでとうございます。
あなたのお肌は最高の状態に仕上がりました。ですので、お池から出て下さい。
「うん。……タオルとかはないんだよね?」
はい。ひとまず、濡れたお体と白い下着を乾かしましょう。
「色は言わないでよ……」
フィギュアの台座を外し、ロングスカート側をあなたのお体に向けると、ドライヤー代わりになります。
「それはヒドい!」
あなたは少しためらったものの、台座とフィギュアを分離します。お人形をドライヤー代わりにして、お肌や下着に当てました。スカートの中から熱風が出るのは、角から魔力の熱が放出されているからなのです。
中はじろじろ見ないで下さいね。あなたに見られると、とても恥ずかしいのですぅ……。
「それじゃあやらなきゃいいのに。スカート側を向けないで済む他の魔法はないの?」
ありますが、それだとあなたをドキドキさせることが出来ませんっ!
「池に入る前とおんなじような理由だった!」
あなたのお人形さんは、あなたの素敵なお姿を見ることと、あなたに喜ばれることを好むのです。どうか、お人形型ドライヤーをお使い続けて下さい。
「バス子さんが気にしないなら、私は構わないけどね」
なるべくスカートの中を意識しないようにして、あなたは乾かすことに専念しました。
では、そろそろあなたの乾燥係としてのお役目も終わりですね。バス子と台座は再び消えます。
「ありがとね、バス子さん」
どういたしまして。
まだ霧は舞ったままですので、今のうちにお着替えをお願いいたします。
「やっと制服を着られるのかぁ~。こんなに制服を愛おしく思たことはないよ」
制服を着て、あなたを一週間も牢獄に閉じ込めて酷い目に遭わせたこの腐った異世界を、征服しましょう。
「そんな魔王の短絡的思考みたいなことはしないよ。せめてまともな生活がしたいんだよね。牢屋暮らしじゃなくて」
やはりあなたは恨みを持っているようです。
「無実で放り込まれたんだから、当然だよ、っと」
あなたは体操着の上下を着ました。上は首と袖の部分が紺色になった白の半袖で、下は紺色のハーフパンツ。そのお姿でもあなたはじゅうぶんに美しいのですが、さらに高校の制服を、全てきちんと身に着けます。
紺色のスカートの下にハーフパンツを穿いたあなたは最高です。
「それってバス子さんの趣味?」
はい。
あなたはバス子への感謝の気持ちが少ーしでもあるのでしたら、ぜひとも、――下にハーフパンツ穿いているから見られてもだいじょーぶだよ~っ! と、おっしゃってスカートを思いっ切りたくし上げて下さい!
「……感謝の気持ちが消えそうになった」
やって頂けますか?
「やらないよ! 恥ずかしいっ!」
そうですか。
残念ですが、バス子もあなたのご意見を尊重し、我慢します。またあなたの下着が見られたので満足していますし!
「またとか言ってる! いつから意識してたのッ?」
あなたが最初に牢獄内で用を足そうとした時……なんて、恥ずかしくて言えないです!
「言っちゃってるよ!」
もう霧は消しましょう。はい、消えました。
「急に整えたような冷静な声で言い始めた……」
池の中は、おさかなどりさん達のお陰で、あなたが入った時よりも澄んでいます。
あなたは池の端に置いていた囚人服を取る際、きちんと丁寧に折りたたみました。素晴らしいです。
「一応、借り物だからね。本当は洗濯機で洗いたいけどそんなのないし、池で洗うわけにもいかないから、汚いままでもしょうがないよね、諦めよう」
制服姿のあなたは囚人服を持って、お城へと急ぎます。
「遅かったじゃないか」
あの兵士のほうから声をかけてきました。あなたはまた膝蹴りをされると思いながらも、最大限の警戒をしつつ、恐る恐る兵士に近寄ります。
「あの……お返しします」
「お前は選択肢を間違えなかったな」
「え?」
「また俺ではなく隣の相棒に声を掛けようものなら、蹴りを入れていたところだ。そして、服をたたまずに返すような恩知らずだったら、もう一発だった」
「うわぁ……」
あなたは恐怖のあまり、小さなうめき声を出していました。
「今度こそ、城には来るんじゃないぞ。お前のために言っているんだ。俺個人としてはお前に恨みはないが、国王陛下は魔王に愛する王妃を奪われて以来、三十年も苦しみ続けておられる。魔王の手下と疑われるお前と再び顔を合わせても、互いに不快になるだけだ」
「じゃあ私、仲間を待たせているので失礼しますっ!」
あなたは素早く頭を下げ、その場を走って離れます。
「……王様にも理由があるからって、疑われただけで無実の私を牢屋に閉じ込めることはないよね」
あなたのおっしゃる通りです。
「これでまっとうな格好にもなれたし、あの三人とも、少しは仲良くなれればいいな」
あなたの想いは、前向きでした。
この作品で一番登場する男性キャラクターって、今のところ、膝蹴りしてくる兵士ですよね。おかしな話です。
今回もお読み頂き、ありがとうございました。