男子校に入学したはずなのに、チア部に入ってドキドキする件
どうも皆さんおはこんにちばんは!怪物mercuryです!
今回はチア部に入ってドキドキする回……なんじゃないですか?
「それにしてもどうしたの?こんな微妙な時期に異動なんて。」
いきなり帰ってきた父親には、まずこれを聞きたかった。この期に及んで首なんかになってたら大変だ。教師だからないと思うけど。
「いや、いろいろあったらしい。」
「まあ、首になったとかじゃないなら気にしないけどさ。」
それに、父親はどこかの妖怪ミンチ女と違って温厚だ。
「俺、明日部活あるから、今日は早めに寝るよ。」
「そうか、今回はきちんとやれよ、とは言わん。まずは、楽しんで来いよ。」
「わかった。」
やっぱり、父親は人がいい。よすぎるがゆえに、母親に頭が上がらないのが欠点だが、本気で間違っていると思ったときにはきちんと言ってくれる。
「ところで、何部に入ったんだ?男子校なら、部活も厳しいだろう?」
父親はガタイがいい。何せ、昔はアメフトだかラグビーだかをやっていたらしい。そりゃ、男子校の部活に少し心配にもなるわけだ。
「うーん、体育会で言う応援部みたいなものかな。先輩たちも優しいし、心配いらないよ。」
「ほう、応援部なのに先輩が優しいとは珍しいな。でも、カヅキが楽しめるならそれでいい。無理しすぎるなよ。」
「うん。」
中学のころ、幽霊部員になったのは、単に動くのが面倒だったからだが、それでも親に大切にされるというのは悪い気はしない。
「おやすみ。」
早々に歯を磨き、渡された部活用のユニフォームも持った。目覚まし時計の電池は、万が一にも切れないように入れ替え、きちんとセットして布団に入る。
おやすみぃ。
鳴らない。
普段女装のおかげで早くに起きる癖がついているため、時間はそこそこ余裕で目が覚めた。具体的には五分ぐらい早く。もちろん、起きるべき時間より、だ。
五分で何ができるわけでもないからもそもそ動いて着替えていたのだが、時計がならない。
思い返してみると、電池を入れ替えたのは切れた電池入れ場からだったかもしれない。こわぁ。
とにもかくにもそれをチェックする時間はないので、さっさと女装を終える。すると、一回へ降りるより少し早く、父親の
「いってきまーす。」
という声が聞こえた。社会人はとても大変なのだろう。尊敬する。
俺もなんかデジャブの食パンを咥え、駅に着く前に食べきる。駅に着くと、電車が遅れていた。
これはよくない。慌てて先輩のラインを立ち上げる。
「ごめんなさい、時間通りには行けません。いま、最寄り駅にいます。この登校路を東西に横断する電車がかなり遅延しています。……本当は、時間通りに行くべきだけれど、でも今はもう少しだけ、遅刻が確定しています。私の乗る電車が、かなり遅延しているからです。」
どこかで見たフレーズな気もするが、気のせいだと思おう。送信っと。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「ひっ。」
後ろから笑い声が聞こえてきた。思わず悲鳴を上げて振り向くと……レイナさんじゃないですかぁ。
「じゃんけんに買ってよかったですわぁ、お姉さまぁ。」
「そ、そうか。」
「やっぱり、愛は勝つということですわねぇ。」
「そ、そうだな。」
何を言っているのか、一割ぐらいしか理解できないし、したくない。
「お姉さまのこと、大好きですわぁ。」
抱き着かれていて動けないけど、電車が来ないとはいえ、線路にダイブするのは怖すぎるし、後ろは人込みだ。
今のレイナと、線路に飛び込むののどちらが怖いかには要議論だが。
一時間ほど抱き着かれた挙句、ようやく電車が動き出し、レイナを引きずるようにして学校につく。かれこれ二時間ぐらい遅刻した。
一時間分の原因は、どっかのおんぶお化けのせいである。
「すみません、大変遅れてしまいましたっ!」
初日に二時間の大遅刻をかました俺は、緊張しながら体育館に入ると、先輩たちも、まだ名前すらあやふやな同輩たちも、みんな暖かく出迎えてくれた。
「遅かったね!心配したよ!」
「なにかあったの?電車以外にもトラブル?」
本当に優しい人たちだ。この人たちに嘘はつきたくない。
「すみません、ストーカーに抱き着かれてて……。」
というと、みんな顔が真っ青。ヒカル先輩なんて、後輩の俺にハーブティーまで差し出してくれる。
勝手に俺の仮入部届に入部届を混ぜたボーイッシュ女装男子の先輩も、先生に連絡とか言ってるし、大ごとになりそうな予感。
「いや、皆さん落ち着いてください。慣れてますから。」
……みなさん?顔が引きつってますよ?
どうやら、俺流男子校ジョークは少し過激すぎたのか。でも、みんながやけに優しくしてくれた。
ストレッチの時とかも、
「痛くない?」
と適宜声をかけてくれるヒカル先輩や、運動が一つ終わるごとに、
「シャワー使わないの?」
なんて声をかけてくれる同輩もいた。
「今日はいろいろあったみたいだし、後輩たちにもう一度踊りを見てもらって終わろう!」
ヒカル先輩が手を叩き、号令する。明るくてかわいい系美女装男子の先輩がやると非常にきらきらする。
「はい!」
同輩の一人がささっと音楽をかけに行く。少しアップテンポな曲の前奏が流れ始め、初めて見たときのワクワク感が思い出される。
先輩たちの集中力も、出だしに近づくにつれ高まっていくのを感じた。
かっけぇ……。
チアダンスとチアリーディングの大きな違いは、やはりこの「スタンツ」にある。
チアダンスでは存在しない要素で、「チア」と聞くと俺を含む多くの人が思い浮かべるであろう、ヒトが上に乗っかりあったり、ポンポン飛んでいるような動きだ。
今先輩たちがやっているのはエレベーターというやつだが、すごく色々あるらしい。まさに感動雨あられだ。
「チーム、サンリリー!」
すげぇ!
後輩組みんなで拍手をする。すげえなこりゃ。
「次回からは、基本的な動きの部分からやっていこうね!」
ヒカル先輩も優しいし。わくわくしてきた。
「そういえば、シュガー、今日歓迎会やるってライン見た?」
「す、すみません、まだ見てないです。」
どうやら、俺がレイナを引きずっている間に来たものらしい。
「動くとおなかがすくからね!今日は先輩のおごりだぞー!」
みんながわぁー、と色めきだつ。こういう女子っぽいしぐさや言動は俺の精神衛生によくないのでやめてほしい。さっきのチアも感動しているみんなの横顔が可愛かった。
「それじゃ、場所なんだけどー。」
ボーイッシュ先輩が話し始めているときに、少しだけヒカル先輩が身を寄せてきた。
何かが背中に当たるのを感じる。いや、当たってる。柔らかい。
この学校の人たちはみんな高級なコルセットを使っているのだろう。俺の二万のですらずれたりなんなりして大変だったのに、先輩たちはそんなそぶりを見せない。
さすがに聞いたりはしないけどさ。
「そうそう、今日は男子とかあまりいない店だから、怖がらなくて大丈夫だよ。」
俺をなんだと思っているんだろう。というか、女子ばかりの店の方が俺にとっちゃ怖いんだが。
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
ありがたいから、いや、ありがたくないけど、そのいい香りをどうにかしてほしい。女子女子していて非常に逃げ腰になってしまう。
「じゃあ、駅前のスイーツパラダイス集合で!」
マジかよ。そりゃ男性少ないかもしれないけどさ。絶対、甘いものが大量に出てくるじゃん。
その日の俺は、胃もたれに苦しむことになるが、それに気が付くのに数時間ほど遅かった。そう、遅かったのだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!いかがでしたでしょうか!
今回もお色気回……かとおもってましたぁ?ざんねぇん、ピュアな憧れでしたぁ!ってやろうと思っていたのに、最後の無自覚なヒカル先輩のおかげで台無しですね。
お恨み申し上げます。
次回!四月末ですが、学校に思いもよらない事件が起こります!
お楽しみに!