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33:<水曜日> オーブンで焼くチーズカレー

 染はスパイスの補充をしながら、店の様子を窺っていた。

 アルバイト初日の雛は、楓にサポートしてもらいつつ、順調に接客をこなしている。

 なんとか昼の混雑時を乗り越え、今はキッチンの奥で休憩中だ。


「お兄さん……じゃなくて店長ってさ、お姉……楓さんと付き合っているの?」


 休憩の最中、机に座って食事中の雛が、唐突に染に話しかけてきた。

 慌てて楓を見るが、彼女は離れた場所で接客中のため、会話は聞こえていない。

 染の行動を観察する雛は、頬杖をつきながらため息を吐いた。


「なぁんだ、片思いか」


 つまらなさそうに足をバタバタ動かすのは止めて欲しい。

 どうして今の会話で、そんなことまで見破られてしまうのか。

 

 内心動揺しつつ、オーブンからカレーの皿を取り出す。洋燈堂の「本日のカレー」は、オーブンで焼くチーズカレーだ。

 チキンカレーにチーズと野菜を載せて、こんがり焼き上げる。とろとろに伸びるチーズが魅力的な一品。

 朝、楓と一緒に味見をしたけれど、彼女にも好評だった。


「楓ちゃん、カレーできたよ。熱いから、持つときは気をつけてね」

「はい」

 

 皿を運び、食べ終えた客の会計を済ませ、テキパキと働く楓。

 その間、染はドリンクの準備をし、できたものを再び彼女に渡す。

 受け渡しの際、偶然楓と手が触れ合ってしまった。

 

「……っ!」

「すみません、大丈夫ですか?」


 平然とドリンクを運ぶ楓を見て、雛は「楓さん、鈍感すぎ」と、またため息を吐くのだった。

 

 そうこうしているうちに、混雑している時間は過ぎて、一時的に店内に客がいなくなる。

 タイミング良く、三階から理が下りてきた。

 仕事を辞めた彼は、次の職を探しつつ、のんびりした生活を満喫している。


 子供の頃から、追い詰められるように机に向かっていた弟を知る身として、染は彼が体や心を休ませることは必要だと感じていた。

 けれど、チーズカレーを注文する理は、楓と仲良く話し込んでいる。

 休憩を終えた雛は、二人の様子を見て、染に憐憫の眼差しを向けた。


「店長、ぼやぼやしていると、賀来先生に楓さんを取られちゃうかもね。私が助けてあげようか?」

「え、雛ちゃん?」

「賀来先生は、私が狙っているんだもん」

「……そうなんだ」


 けれど、雛ちゃんの申し出は丁重に辞退し、他人任せにせず頑張ろうと決める。

 やはり、こういうことは染自身で行動しなければ。


(とはいえ、どうすべきか見当もつかないな。明日は休業日だし、どこかに誘ってみようか?)


 動くなら、早いほうが良い。楓がキッチンに戻ってきたタイミングで、染は彼女に声をかけた。


「楓ちゃん。もし、明日用事がなければ、一緒に出かけない?」

「いいですよ、買い出しですか?」

「えっと、そうじゃなくて。何か食べに行こうかと……」

「なるほど、カレー屋巡りですか。フェスのときに、買えなかったカレーがありますし、リベンジですね」


 楓は仕事の延長だと勘違いしている。後ろから突き刺さる雛の視線が痛いけれど、もうそれでいいことにした。

 二人で外出できるだけでも万々歳だ。

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