22:<日曜日> 豆・鹿・鴨カレー
お昼前になると、お客が増えてきた。
寒いけれど、イベントに来てくれる人が多いのはありがたい。
洋燈堂は相変わらずだけれど、グランプリを取った店の前には、長蛇の列ができている。
桃さんの店も、その界隈では有名らしく、ひっきりなしに客が訪れる。
「……うちのカレーも買って欲しいです」
「知名度は、ないに等しいからねえ。お店の方は徐々に人が増えてきたけれど」
「来年は、グランプリに挑戦してみますか? 染さんなら、いい線行くと思うんです」
「面白そうだねえ。でも、楓ちゃんは僕を買いかぶり過ぎだよ」
しばらくすると、楓と同い年くらいの女性グループが店の前にやってきた。
すかさず、チャイの試飲を差し出す楓。
「カレーもおいしいですよ」
同時に宣伝する染さんのイケメンな笑顔に、女性たちは「きゃあ!」とはしゃぎ始める。
「ねえ、どうする?」
「一つ買おうよ。ここのカレーの写真、可愛いし」
グループ客なら、様々な店のカレーを少しずつシェアできる。買ってもらえる可能性が高いのだ。
「それじゃあ、二つ、くださーい」
「ありがとうございます!」
いそいそと、楓は染さんの作ったカレーを盛り付ける。
赤、緑、白、それぞれのカレーが、湯気を立てて一つの容器に揃う。いい香りだ。
「わぁ、三色だ!」
「綺麗~!」
楓と染さんで、一生懸命考えたカレーだ。喜んでもらえて嬉しい。
近くのテーブルに陣取った彼女たちは、スマホでカレーを撮影していた。
「よかったね、楓ちゃん」
「はい」
女性グループのカレーを目にした通りすがりの人々が、カレーを買ってくれるようになった。少しずつ、店のものが売れていく。
近くのテーブル席は、洋燈堂のカレーを食べる客でいっぱいだ。
チャイやラッサムも売れ行き好調。
さりげなくブースに置いていた、洋燈堂の名刺も減っている。
※
昼を過ぎると、客足は落ち着いた。
お昼の時間で、洋燈堂カレーはかなり売れている。
長蛇の列ができていた有名店は、カレーが完売していた。食べてみたかったけれど、仕方がない。
「すごい……」
「さすがだね」
桃さんの店のモモも売り切れていた。
再び暇な時間が訪れる。
この時間帯は普段、お店を開いているときでも空いているのだ。
「染さん、お店を見ていますから、お昼を食べてください」
「楓ちゃん、先に食べなよ」
「それじゃあ……なにか、買ってきましょうか? 他の店のカレーとか。グランプリのお店のは、売り切れちゃいましたけど」
話していると、ブースの横から聞き慣れた声が響いた。
「カレー二つ、くださいな」
「あ、桃さん!?」
なんと、隣のブースから、桃さんがカレーを買いに来てくれた。
「気になっていたんだよね。三色カレー」
「桃さんのところは、ダルバート風ですね」
「そう。前に食べたのとは違う種類のカレーだよ。よかったらいる?」
「買います!」
結局、楓たちは桃さんの店と、カレーを交換した。
「おお、今日は鹿肉カレー、ダルカレー、鴨カレーですか。おいしそうです」
楓はスマホで写真を撮り、勢いよくカレーを食べ始める。
「うーん、美味。お肉がトロトロ……」
カレーを堪能していると、店に客がやって来た。
こそこそと立ち上がって、染さんを手伝いに行く。すると……
「あれ、お前……天野じゃね? 天野楓?」
「……っ!?」
驚いて顔を上げると、そこには、スーツを着た会社員時代の先輩が並んでいた。




