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17:<金曜日> 白いカレー


 無事に買い物を終えた楓は、洋燈堂の前まで戻ってきた。

 夜も遅く、見上げれば、二階の店舗に明かりが点いている。


「染さん、いるかな」


 理さんが彼のもとへ向かったこともあり、楓は少し気になった。


(行ってみようかな)

 

 一階に荷物を置き、その足で錆びた階段を上っていく。

 店の扉は開いていた。

 楓に気づいた染さんが、カウンターから顔を出す。


「あれ、楓ちゃん? どうしたの?」

「お疲れ様です、明かりが点いていたから気になって。こんな時間まで仕事ですか?」

「仕事じゃないよ。帰るに帰れないだけ」


 困り顔で微笑む染さんは、視線をキッチンの奥へ向けた。


「んんっ?」


 楓がいつもまかないを食べ、雛ちゃんが勉強をしている机に、うつ伏せで寝そべっている人がいる。見るからにきちんとした服を着た男性は……

 

「理さん?」

「うん。お酒を飲ませたら寝てしまって、起こすのも可哀想だから、そのままにしているんだ」


 染さんは小さな声で、楓に教えてくれた。


「せっかく三人揃ったし、晩ご飯でも作ろうか」

「お、お手伝いします」


 手を洗ってエプロンをつけ、楓はキッチン台の前に立つ。


「染さん、今日は何のカレーですか?」

「変わり種のカレーだよ」


 冷蔵庫からカリフラワーを取り出しながら染さんが笑う。


「それを使うんですか?」

「そう。今日のカレーは、その名も白いカレー」


 ……と言われてもしっくりこない楓は、首を傾げながら質問する。


「ホワイトシチューみたいなものですか?」

「大丈夫、ちゃんとカレーなんだ。ターメリックとか、色のつくパウダースパイスを使わずに、ホールスパイス中心で作ると白くなるんだよ」

 

 日本には、北海道発祥のホワイトカレーという料理がある。

 起源については諸説あるけれど、スープカレーと同様、北海道ではメジャーなカレーらしい。

 

 話しながら、染さんは手早くシナモン、カルダモン、クローブ、クミンシードをフライパンでテンパリングしていく。

 楓は、副菜を準備することにした。確か、店に出した料理が残っていたはず。

 その間に染さんは、にんにく、生姜、タマネギを炒めて、赤唐辛子を加え、ヨーグルトを投入した。

 よほど疲れているのか、理さんは眠ったままだ。

 副菜の用意を終えた楓は、理さんの背中に膝掛けをかけてあげる。


「理も、いろいろあるみたいだね」

「そうなんですか?」

「昔から、努力家でまっすぐな弟だから。どこか、楓ちゃんと似ているかもね」


 仕事のできそうな理さんに似ていると言われ、楓は全力で首を横に振った。


「理も、仕事や両親の件で悩んでいたみたい。好きに生きればいいのに、僕とは違って責任感が強いんだ」


 染さんは、どこまでも理さんを心配している。

 理さんも机で寝ているし、以前のような兄弟の険悪さは感じられない。


 鶏肉やカリフラワーを入れた染さんは、前に作ったチャツネを加えてフライパンの蓋を閉じる。最後に生クリームを混ぜて完成だ。


「白いけど、カレーの匂い!」

 

 残り物のご飯をレンジで温め終えた楓が、それらを皿にのせつつ声を上げる。

 ご飯や副菜の用意を終え、カレーを盛り付けすると、楓はそれらをカウンターテーブルに運んだ。

 すると、カレーの香りで気がついたのか、理さんが目を覚ます。

 ゆっくり頭を起こした彼は、楓がいることや、いつの間にかカレーの用意がされていることに驚いた。

 そして、我に返り、居眠りしていた自分を恥じるようにムッツリした表情になる。

 

「おはよう、理」

 

 染さんが机の上に酔い冷ましの水を置くと、理さんはさらに顔をしかめた。


「カレーができたよ。食べよう」

「はぁ?」

 

 大声で文句を言い出しそうな理さんだったけれど、楓の目があるのを気にしてか、渋々カウンター席に移動した。


「ご飯や副菜が残り物で申し訳ないですが、カレーは絶対においしいですよ」

 

 こんなにも早く、理さんにカレーを口にしてもらえるとは思わなかった。

 けれど、彼に染さんの仕事ぶりを知ってもらいたい。

 静かな夜の店内で、楓たちは並んでまったりとカレーを食べたのだった。

 

 

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