成長さん
成長さんから成長しなさいって追いかけられる。
成長しないといけない。
成長さんからそう言われるんだから。
成長さんがぎゅうぎゅう後押ししてくる。
「挑戦しないと何も始まらないよ」
何も挑戦したくない。私はこのままで十分なのです。
「向上心がないやつは馬鹿だ」
カメレオンにも、擬態したくないときだってあるのです。
「まず一歩踏み出してみれば、何かが変わるかもしれないよ」
でもね、そこは崖っぷち。シオマネキが海の中から手招きしてる。
成長さんが背中を押してくる。ものすごい力で後押ししてくる。追い風が吹いて、順風満帆。
彼らの後押しがあまりにも強すぎて、ぷらっとホームからはみ出した。
ちょうどやってきた新幹線の鋭利な鼻にも背中を押され、くの字になった私を、
誰もまともに見てはいなかった。
私の死体は夕方のニュースにもならなかった。
犯人は成長なんです。成長が私を殺したのです。
でも、成長さんは今日もみんなのヒーローで。
もてはやされている裏側で、新しい押しくら饅頭が始まっていた。
プラットホームからはみ出しそうな行列は、枕木の方を向いて続いている。
みんなのヒーロー成長さんは、一番うしろでところてんを押し出していた。