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 後日譚其ノ弐





「はは……はははははっ!」


 笑い始めた。


「はは、あははははははっ!」

「答えろ…お前は、お前は誰だ!」

「まさか気付くとは! 気付いてしまうとはね!」


 箍が外れたかのように笑い、涙を流し、歓喜に身を震わせる男。

 予想外の行動に、破入の手が緩み、男を床に落とす。けども、殴られた痕も赤い男は、発作のように笑い続ける。


「笑ってんじゃねえ! 答えろ!」

「…ああ、いいとも。いいとも」


 しばらくして、落ち着いた様子の男は、自力で立ち上がると、姿勢を整え、一転して人を食ったような笑みを浮かべてみせる。


「私は、破入君の兄…」

「まだ言う…」

「だと思わせて、君を助けていたのだよ」

「………」

「そうだろう?」


 指摘に、不愉快そうな顔を隠さず、口を閉ざす破入。

 時折肩を震わせる男は、楽しそうに、とても楽しそうに話始める。


「先日の鏡の一件で、私は偶然、君を知ってね」

「……」

「何の力もない、ただの人である君が、まさか雨谷君たちを助けてしまうとはね。とても驚いたよ」

「お前どうして…」

「おっと。さすがに痛いのは嫌だ。もう殴らないで欲しいな」


 低い声に、ぴくりと動いた腕を前に、男は両手を上げてそれを止める。


「君は意固地だからね、他人でも、いや肉親でさえ自分の弱みを見せようとしない。けれど、私は君を助けたい、力になりたい」

「………」


 一方的だって? 結構だよ。

 哂い、男は続ける。


「だから私は『兄』と成り、弟の君を助けてあげようとしたのだよ」

「お前…っ」


 破入の腕が再度揺れるも、その場に留まる。歯を食いしばって、耐える。


「そうだそうだ。ところで破入君、いつ、私に気付いたのかな」

「……」

「自惚れではないが、私たちは仲が良い兄弟のまま、付き合っていけると、確信していたのだけれど」


 射殺されそうな視線を向けられているにも関わらず、男は破入に目を向けて、嬉しそうに笑う。


「答えてくれない、か。少し残念だ」

「……」


 沈黙。

 言葉通り、残念そうに眉を寄せ、今度は破入の、背後へ目を向けて、問いかける。


「では、次の質問だ」

「………」

「破入君、今は鳴いている、かね?」

「なっ…」


 当然のように投げかけられた質問。


「残念だけども私には聞こえない。だから破入君、教えてくれまいか?」

「…お前、どうしてそれを…」

「今は、鳴いているのかね? 私を前にして、アレは、啼いているのかね?」


 怒りではない感情で、身を震わせた破入。男は、そんな彼を安心させるように、穏やかに続ける。


「そう不安がることはないよ。たとえ君が成ってしまったとしても、私が大事にするからね、心配することは何もない」

「……」

「そう。一つも」

「………っ」

「色々と、君を騙したことは謝罪しよう。けれど、それでも私は、破入君、君の手助けができて、とても満足している」

「……くそっ」


 男が本気で言っていることを察し、破入は恐れを誤魔化すように吐き捨てる。

 その勢いのまま立ち上がると、男へ背を向ける。


「……もう、近づくな。俺に、俺たちに関わるな」

「君が助けを求めれば、私はいつでも快く力を貸そう」

「二度と、顔を見せるな」

「また近いうちに会おう。君が相談しに来ること、心待ちにしているよ」

「…止めろ」


 噛み合わない会話。逃げるように、破入は部屋から出て行く。

 その後ろに付いてくる、一つの気配。


「それじゃあ。破入君、気をつけて帰るんだよ」

「…………」


 そうして破入は、行き方も、場所も、何もかも分からない『家』を後にした。


 …その背に、慈愛に満ちた視線を受けながら。















 以上で本編は終わりとなります。ここまで全て目を通して下さった方、誠に有難うございます。

 次話は、完全な後書きとなるので、特段目を通していただく必要はありません。次話は、趣味です。

 それでも興味がある方は、一読、よろしくお願いいたします。

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