第壱拾六話
隙間なく板が四方に打ち付けられた、暗い暗い通路。
湿った、生臭い空気。淀んだ、生暖かい空気がゆっくりと、流れてくる。
それに加え、微かに、鉄錆のような匂いが混じる。
「………」
「……」
また、完全な暗闇ではないため、壁や天井に、何か黒いものが、今まで見てきた黒い羽とは違うものが飛び散っているのも確認できる。
それらから連想されるモノに、采華の目が顰められ、雨谷の顔が険しくなる。
無言のまま、自然と早くなる、二人の足。
嗅覚や視覚からの情報から、二人の胸に嫌な予感が沸き起こり、急速に膨らんでいく。
「……破入! いるなら返事をしてくれ!」
思わず叫んだ雨谷の声は、四方の壁へ吸い込まれ、消えていく。
さらに急ぐ二人の足、湿った足音が連続し荒い息が聞こえ…
……鉄扉が閉ざされた音が続く。
「……っ」
「……」
二人は同時に立ち止まり、振り返るも、異常を確認することは出来ない。
後方で何が起きているのか、引き返したくなる思いを振り切り、二人はなお奥へ、奥へと進んでいく。
「……破入っ……」
「………」
小走りで進む二人の目の前が、徐々に、徐々に明るくなっていく。暖色系の灯りが零れ、一層生暖かい、不快な風が全身を通り抜ける。
そしてついに、狭く暗い通路が終わり、二人の足がそこへと踏み込んだ。
「どこにいる! 破入!」
「破入さん!」
滅多に声を荒げない雨谷の叫びと、精一杯の声を上げる采華。
広がった空間に、けれど二人の声は反響せず、不吉な色合いをした壁へと吸い込まれていく。
今まで通った通路と同じく、天井から壁、床にいたるまで、板が張り巡らされた空間。
今までとは違うのは、その空間の奥行きと高さ、そして、中央に位置するモノの存在。
「…破入! 無事か!」
「破入、さん…」
ぐるりと辺りを見回していた二人は、その人影に気付くやいなや、中央へと駆け寄っていく。
「………」
中央には、小さな小屋のような…小型の社が鎮座していた。
黒地に、不自然な黒が幾重にも塗られた瓦に、黒色をした何かが飛び散った跡が残る、二本の柱が続く。
そして、普段は閉ざされているであろう扉は、手前に開かれ、内部を晒していた。
雨谷たちが見知った男の前で。




