第壱拾四話
「ここが、一番奥の…部屋」
一際立派な木製の両引き戸を前に、雨谷が呟く。
閉ざされた扉。薄暗い灯りの中でも、いくつもの羽が彫られているのが分かる。
…普段目にしている、鳥の羽を大きくした意匠。
普通ならば、そういう感想を抱く、羽の細工。
「……あの羽だ」
しかし、実物を目の当たりにした二人には、何が元になっているのか、痛いほど理解できる。
雨谷が彫られた羽の一つに触れるも、どこか粘り気がある、湿った感触に、思わず手を引っ込める。
「………」
采華は、まじまじと自分の手を見つめる雨谷から目を離すと、身を乗り出す。
無数の羽が散らばった両引き戸に手をかける。
「采華さん…」
「大丈夫…平気よ…」
どんな危険があるか分からない、と静止する雨谷に、采華は首を振り、腕を動かしていく。
抵抗なく開いていく扉の先は、灯りが少ないのか、一層暗闇が強くなった空間が広がる。
そして。
「うわっ」
一段上に広がった畳の上に、頭を下げた着物姿の女性。
突然現れた人影に、采華の背後から目を凝らしていた雨谷は声を上げ、後退する。
「な、こ、この人…」
「……この人は…大丈夫…だから…」
「あ…う、うん……ごめん…」
憂いを帯びた采華の言葉に、動悸治まらぬ胸を押さえ、とりあえず雨谷は落ち着いた体を装う。
開かれた空間で頭を下げたままの女性は、雨谷の驚きの声にも、采華の静かな声にも、ぴくりとも動かず。
まるで、捨て置かれた置物のようで、けれど、確かな存在感を持った…あの、黒い鳥のような。
「………っ」
そこまで連想し、雨谷は息を飲み、ゆるりと首を振る。
一方、采華は自らの言を証明するかのように、恐れもせず女性の前へと立ち。
「あなたは…止めたいのね……」
囁き、顔を持ち上げる。
「止める……?」
頭を下げたままの女性と、その頭部をしっかり見据えた采華。
雨谷も采華と同じように女性へ目を向け、なんとなしに視線をそのまま横へずらし……絶句する。
「…これ…は……」
「みんな……成ってしまった……」
頭を下げたままの女性。その背後には、大きな鏡、姿見が置かれていた。
「…………」
明らかに不自然な配置である。空間の中心に姿見を、置く必要などないというのに、そこにある。
「………」
まるで、雨谷のような人間が来ることを、予想していたように、鏡は女性の姿を映し出す。
……異形と、化した、女性の姿を。
大した変更ではないのですが、第一話から第三話、サブタイトルを、それぞれ
第一話→第壱話
第二話→第弐話
第三話→第参話
と変更しました。
本当に、大したことありませんが、一応までに。




