表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/23

第壱話

 主な登場人物の読み方は以下の通り。


 雨谷:あまがい

 采華:うねはな

 破入:はにゅう


 上記に加え、人物描写等、説明不足な部分が目立つとは思いますが、よろしくお願いします。






「汽笛の…音だって?」


 破入は訝しげに呟くと、眼前の、どこか自分に似た顔をまじまじと見つめる。


「そうだ。父さんたちの話ぶりじゃあ、近くに汽車が通ったような感じだったが…」

「いや…そんな話は…」


 眼鏡をかけた、温厚そうな顔は、破入の鈍い反応を前にして、眉を寄せる。

 その眼鏡に光が反射し、困惑した破入自身の顔が映りこむ…よくよく目つきが鋭い、睨み付けられている、圧力を感じる等、良い方向に評価されたことがない顔。


「そうか? 気付いたら、音が聞こえると聞いたぞ」

「…汽車、なあ。駅舎は大分離れたところにはあるっちゃあるが…家の近くで、そんな音は聞こえねえ。少なくとも、俺は聞いた覚えがない」

「なるほど。父さんたちの、気のせいか」

「だろうさ…二人して、汽笛がどうこう言ってたのか?」

「ああ。不思議な音だねえ、そうだなあ、とか相変わらずの調子でさ」


 声色を真似すれば、苦笑が返ってくる。


「兄貴のところでも、そんな調子だったのか」

「そうさ。いつもの調子、だ。仕舞いには、お土産、家に置いてきたから、近所の店から菓子を買ってきて、さあどうぞ、さ」

「はあ…いつも通りだったんだな…」

「大方、何かと聞き間違えたんだろうな」


 実家では一度も聞こえなかった音について、そう締めくくり。

 破入の眼前に座る男は、ところで、と話題を変える。


「聞いた話じゃあ、お前、家を出たらしいな」


 悪戯めいた目を向けられ、破入は慌てて首を振る。


「おいおい! 家を出た、だなんて人聞きが悪いぜ。偶々、友人がカフェをやってて、俺はその上の部屋を間借りしてるだけだ」

「なんだ、そんな理由か…しかし、お前にそんな友人がいるとは。魂消たよ」

「爺さんの遺産でとか言ってたか。それもあったが、流石にあの家で兄貴と二人は、辛いしな」

「確かにその通りだ」


 重々しく頷く男。次には顔を見合わせ、男と破入は揃って笑う。


「毎朝、一番にお前の仏頂面を見るのは、耐え難いものがあるな」

「俺も、寝起きが最悪な、兄貴の世話をしたくねえよ」


 二人はひとしきり笑いあうと、笑顔を引っ込める。そして、破入が兄と呼んだ男は安堵の溜息を吐く。


「その様子なら、平気そうだな」

「ああ。心配かけて悪い。こっちもまあ、よくよく行方不明になる友人やら、家出少女やらの相手で、落ちこんじゃあいられないんでな」

「…すごい字面だが、賑やかそうで結構なことだ」


 二人の顔を思い浮かべてか、疲れた、けども活力に満ちている顔の破入を確認し、男は安心したように、一度、もう一度頷く。

 そして、先日、両親を揃って亡くした、破入へと労わりの声を掛ける。


「とはいえ、何かあれば遠慮することはない、頼ってこい。お前は、がさつで無神経で大層世話焼きだが、自分の問題だけは他人に押し付けず、一人で抱え込むからな」

「酷いぜ、兄貴。そりゃあ言い過ぎだ」


 容赦なく言い放つ男。けども事実なだけに、破入は言い返せない。

 誤魔化すように笑う破入へ、今度は若干真剣みを帯びた顔で、破入にとって唯一の肉親である男は、繰り返す。


「いいか、月並みな台詞だが、何かあったら私に相談しなさい。それが難しいならば、他に頼れる人に相談しなさい。いいね?」

「分かった、分かってる」


 誰かを思い出させるような言い回しに、圧力。渋い顔をしてそれを受けた破入は、逃げるように立ち上がる。


「おっと、時間も時間だ。ここらで帰るか」

「全く。子供の時と何も変わらないな、お前は」

「言いっこなしだ」


 都合が悪くなると、逃げようとする癖。

 溜息を吐いて、けれど破入の行動を止めることなく、男は素直に送り出す。


「気をつけて帰るんだぞ」

「ガキじゃあねえんだから、言ってくれるな」

「ガキだよ…私にしてみれば」

「へいへい。兄貴には敵わねえな、っと」


 子供のように言い捨て、それでも破入は兄と呼んだ男へ手を振り、去っていった。


※あらすじはイメージであり、また、本文と併せて、予告なく変更する場合があります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ