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十三番と呼ばれた少女  作者: 弓 あかり
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第八章 無駄

最近巷では週休二日制が一般的らしいが、私立和桜女子高校は休日は日曜日のみとなっていた。和桜生が高校生らしく遊びにいくことができるのは日曜日のみとなる。なので、美咲と西園寺も日曜日に遊びに行く事にした。

和桜から一番近い映画館というとショッピングモールに入っている映画館になる。その映画館は学校が近くにあるためか、学生で賑わう。学校が休みの日曜日である今日も、映画館は混んでいた。

チケット売り場は長蛇の列となっていた。美咲と西園寺は列に並ぶ。

「全く、人が多すぎる」

美咲が愚痴る。ほんわかとした調子で西園寺が

「日曜日ですからねぇ」

と相槌を打つ。

「そう言えば、値段いくらだ?」

「私達、高校生ですから1600円です」

美咲は西園寺にちらりと目を向ける。白いブラウスに、膝下の丈のグレーのスカートをはいている。髪形は学校での姿とおなじ三つ編みだ。その地味な格好と百五十㎝たらずの身長も相まって高校生には到底見えない。

美咲も人のことはあまり言えないのだが。無地の黒いTシャツにジーパンを履いている美咲は短髪も手伝って、むしろ中学生の男の子に見られるのではないだろうか。

まぁ、だからといってわざわざ年齢を詐称するほど美咲も西園寺も金に困ってはいなかった。

「午前の部、無理そうだな」

「そうですねー、バツ印がついちゃってます」

「意外と人気なんだな」

「動物もの弱い人、多いですから」

電工掲示板にでている情報を見ながら、二人は話す。

順番が回ってくると、忙しいのか係りの人は二人をチラリとも見ずに高校生料金のチケットを渡した。西園寺は学生証を出そうとしたが無駄に終わったようだ。

結局、午後の部のチケットを買い二人はどこかで時間を潰すことにした。

「どこ行きたいですか」

「ここら辺、来たことないからよくわからない」

「あ、そうですよね。えぇっと、二階にドーナッツ屋さんとアイスクリーム屋さん、一階にグレープ屋さんと和菓子屋さんがありますよ」

美咲は呆れる。

「まだ、十時だぞ。お腹減っているのか」

「えぇ、ちょっと」

照れ臭そうに西園寺は笑う。小さいのに食べるのが好きなのだろうか。意外な一面を見た気がする。

「じゃあ、和菓子が食べたい」

美咲はこの仕事がおわったら、日本にもう来ることもないかもしれない。日本ならではのものが食べたいと考え、そう言った。

「はい、じゃ、案内しますね」

西園寺に連れられてきたところは美咲の期待からやや離れていた。和菓子というか、和風のカフェといったところだろうか。美咲は団子や餅と言った和菓子を想定していたが、メニューに並んでいたのはきな粉パフェや抹茶アイスの文字だった。

とりあえず美咲はきな粉パフェを頼む。西園寺は抹茶パフェを頼んでいた。

「そういえば、昨日の話なんだけど」

「?」

「あの、テレビに出てた人、知り合い?」

「…はい」

暗い顔で西園寺は頷く。

「父の部下です。父と仲が良く、よく家にも来ていました」

「そうか」

「まさか、危険ドラッグをやるなんて。そんな人には見えなかったんですが」

「…」

西園寺の顔は沈んでいた。

そこに、パフェが運ばれてくる。話題が変わった。

「ここのパフェ美味しいんですよ」

ぎこちない笑顔を浮かべる西園寺。その言葉に従い、美咲は一口食べる。きな粉と黒蜜は最高に相性がいい。またこの黒蜜は甘いだけでなく、苦味もあり、それが美咲の口によくあった。

「…美味しい」

「でしょう。実は杉野さんに一度食べてほしかったんです」

嬉しそうに西園寺がはにかんだ。思わず美咲も少し口元がほころんだ。

そして美咲は考えた。自分が笑ったのは、西園寺の笑顔につられてか、それともパフェが美味しかったからかどちらなのだろうか。


美咲からすれば、映画は楽しみにするほどではなかった。西園寺は感動したそうだが。

犬が保健所に送られそうになったり、大きな野良犬におそわれそうになったりしている間、飼い主は思い出にひたっているばかりでろくに捜していない。

飼い主に苛々したと美咲がいうと、杉野さんは真面目ですねと西園寺に笑われた。


十三番は総括する。今日は本当に無駄な日だった。新しい発見も何もない。映画もいま一つだったし、パフェが美味しかった位の発見しかない。

「あぁ、本当に無駄だった。行かなければ良かった」

そうひとりごちる十三番は自分の口元が僅かにほころんでいるのにまだ気がついていない。

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