第六章 西園寺雫
西園寺雫は人間関係を築くのが苦手である。しかし友達といえる存在が今までいなかったというわけではない。西園寺にも斎藤亜利砂という名前の友達がいた。出席番号が近かったので、話をするようになった。姉貴肌な斎藤は西園寺に母性本能でも擽られたのだろうか。斎藤はなかなかクラスに馴染めない西園寺の世話を焼くようになった。
西園寺にとって斎藤は太陽みたいな存在だった。憧れであり、最も親しい友達だと思っていた。しかしある日教室で二人きりの時に言われた。シチュエーションはよく覚えていない。日直だったのかもしれないし、放課後に二人で話し込んでいたのかもしれない。
「雫はさぁー、私のこと好きじゃないんだよね」
「そ、そんなことないです」
「本当に?」
突然そう言ってきた斎藤の眼は澄んでいた。西園寺が好きな眼だった。その時の斎藤の眼には理知的な光があり、考えてこの結論に至ったのだと分かった。
「だってさ、雫は私のこと友達だと思っていないでしょう?」
斎藤の言葉に驚き、西園寺は声をだすことが出来ない。そこに斎藤は捲し立てる。
「雫はさ、私のこと信用してないよね。いつまでたっても名字呼び出し、敬語だし…。遊びに行くときも、グループ組む時もいつだって声をかけるのは私の方。悩み事とかも全然相談してくれないし」
西園寺は何も返せない。
「ねぇ、友達ってさどんなに迷惑かけられても一緒にいるだけで嬉しい存在なんだよ。雫は私のことをそういう存在だって思ってくれてないの?」
西園寺は分からない。どうして斎藤がそんなことを告げてくるのか。戸惑っていると、斎藤は「ごめんね、変なこと言って」と言い会話はそこから別の話題に切り替わった。その後は先生や学校の愚痴と言った他愛ない話をしたのを覚えている。
けれど、今になって思う。あれは彼女の絶交宣言だったのだと。
斎藤はそれから、クラスの中心である佐藤とつるむようになった。もともと斎藤は佐藤のグループにいたかのように自然に溶け込んでいた。そらからは、クラスで笑う彼女をよく見た。西園寺とつるんでた頃よりも斎藤はよく笑っていた。
西園寺は一人ぼっちになった。
そんな時だった。杉野美咲が転校してきたのは。
西園寺は思った。杉野美咲は自分と同じなのではないかと。人とつるむのが苦手で、自分と同じ寂しさを感じているのではないかと。
勉強を一緒にして、笑う杉野を見て親しみ易さを感じた。復讐がどうとか言っていたが、あれはきっと冗談だろう。初めて喋った時に、慌てて友達になろうとか恥ずかしいことをいってしまい退かれていないか心配だったが、そんなことはないようだ。
西園寺は杉野ともっと仲良くなりたかった。斎藤のように嫌われたくなかった。
だから、杉野に遊びに行こうと誘われた時、二つ返事で了承した。
杉野美咲が何を企んでいるか知らずに。