第四章 陰謀
学校が終わり放課後となり美咲はアジトともいえるマンションにに帰ってきた。そしてマンションの中に足を踏み入れ、彼女は女子高生の杉野美咲からエージェントの十三番へと戻ったのだ。ベッドに寝込んでいる二十五番がこちらの方を見てにへらっと笑った。軽い調子で声を掛けてくる。
「お帰りー」
ただいまと答えるべきだと思ったが、そう答える気分にはなれなかった。お帰りという声の響きは十三番に昔死んだ母のことを思い出させた。返事をすることで母と二十五番を同一視することになるのが嫌だった。二十五番も返事がなくても気にしないだろうと十三番は自分の中で結論づけた。だから敢えて関係ない話題をふることにした。
「お前は今日も1日何もしなかったのか」
「えぇー、ひどいな。情報収集頑張ったんだけど」
「情報収集?」
「うん、西園寺雫について」
「…何か分かったのか?」
「いいや、何もー」
「駄目じゃないか」
十三番達の祖国は十三番に西園寺雫を生け捕りにするように命じた。しかし取り敢えずのところ同じ学校に通いながら待機という命令も同時に賜ったのだ。この任務の意味が分からない。杉野美咲として西園寺雫と話した印象からすると、彼女にたいして特別何かは感じなかった。西園寺雫を誘拐して祖国はどうするつもりなのか。十三番は二十五番の調査に期待していただけに落胆する。
「あのさー、何で十三番ちゃんはそんなこと気にするの?」
「…別に」
「何か悪いことする気なら私はまきこまないでよね」
「巻き込まないって。生け捕りを命じられる西園寺に少し興味がわいただけだ」
「ふーん」
別に生け捕り自体が珍しいわけではない。前もとある国の大統領の息子を誘拐したことがある。それは目的が分かりやすかった。しかし西園寺雫は別にそんな大層な身分のものではない。
「学校どうだった?」
二十五番が聞いてきた。どことなくわくわくしている。
「特に何も起こらなかったな」
「授業、ついていけた?」
悪戯っぽく二十五番が聞いてきた。十三番はうっと口ごもる。
「べ、別にそんなことは私の任務には関係ないだろう」
「でも、気になるじゃん」
実は十三番は授業の内容をてんで理解出来なかった。特に日本史。十三番は日本の歴史など知らないのである。そもそも日本語すら最近喋れるようになったばかりなのに、御三家と呼ばれる高校の授業についていけるわけがない。自分の頭が悪いわけでは決してないと十三番は強く主張したい。
「テレビでも見よう!何かニュースがみたい」
「ニュース?話題作りのためにバラエティーを見た方がいいんじゃない?」
「何の話題作りだ?」
「ほらほら、クラスメートですよー」
「そんなことしなくていい」
「友達できないよー」
「仕事の邪魔になる存在はいらない」
「手厳しいなー。あれ、加藤隆三だ」
適当にザッピングをしていると十三番が殺した男がテレビに映っていた。その実、彼は十三番達と同じエージェントの影武者である。危険薬物規制法に反対法について論じていた。
「頑張っているねー」
二十五番がにやりと笑った。二十五番は十三番に悪いことをたくらんでいるのなら巻き込むなと言ったが、そのまま送り返したい。そう思わせる位、テレビを見ながら浮かべた二十五番の笑顔は悪い笑顔だった。