第二十九章 事故
荷物をまとめ、十三番と二十五番、西園寺は車に乗り込んだ。西園寺は荷物の管理はしていないので、十三番達が何をこの車に積みこんでいるのかは知らない。
荷物の中身は、食料品や衣類だと二十五番が言っていた。しかし西園寺はその言葉がどうにも信じられなかった。あの後ろに積んである荷物の中には、爆発物もあるかもしれない。入っているのは人を殺すための道具かも。疑いはじめればきりがなかった。
そう思いながらも西園寺は何も反応しなかった。ただ二十五番の言葉に
「そうなんですか」
と頷いた。そうすると、二十五番は嘲るような笑みを浮かべた。見下すような、微笑み。どこかでみたことのあるようや笑顔だった。ああ、クラスで佐藤がよくこんな笑みを浮かべていたっけ。懐かしい。
西園寺の学園生活は決して楽しいものではなかった。それでもなんだか懐かしかった。
佐藤のことを思い出すと釣られて、斉藤との思い出も甦ってきた。斉藤とカラオケに行ったこと、映画を見に行ったこと、修学旅行の班が一緒だったこと。どれも西園寺にとっては輝かしい思い出だ。斉藤の考えは知れないが。
映画といえば、杉野とも見に行った。もう見れないのだろうか。突然これからの先行きが気になった。
「西園寺。酔ったのか」
「い、いえ。乗り物酔いはしない方なんです」
「へぇ、意外だ。乗り物に弱そうなイメージがあった」
「そ、そうですか?」
「まぁ、それなら大丈夫だな」
「何がです」
「飛行機。酔わないな」
「多分、大丈夫です」
顔色の悪い西園寺を気遣ったのだろうか。杉野が声をかけてきた。こんな状況だというのに嬉しいと感じた。でも感謝の言葉は告げない。告げたらきっと彼女は拗ねてしまうだろう。
車の揺れを感じながら外を見る。左手には田んぼ。右手には森。田舎って感じだなと西園寺は思った。西園寺の住む家の近くと大違いだ。
そしてしばらくして、ふと、回りに車が走っていないことが気になった。えんえんと長い道に西園寺達の車が一台。西園寺は違和感を感じた。何か、何かがおかしい。
ぱぁーんと気の抜けた音が響いた。
重大性なんか感じさせない間抜けた音。
「あー」
と少しぼんやりした運転席の二十五番の声。車が急ブレーキをかけられて止まる。シートベルトをつけていた西園寺は締め付けられる感覚に吐き気すら覚えた。
そんな衝撃があったからか、西園寺が車のタイヤが銃で撃たれてパンクしたのだと気がつくまで時間がかかった。




