第二十八章 境遇
十三番は西園寺の顔を眺めていた。西園寺は泣きそうな顔をしていた。十三番には意味がわからなかった。なぜ、西園寺がそんな顔をするのか。
「そうだったんですか」
西園寺はもう一度呟いた。苦しそうな声だった。
十三番は西園寺に何か言おうとした。しかし十三番の発言を妨害するように、二十五番の声が聞こえた。二十五番は慌ただしくドアを開け、リビングに入ってきた。
「ただいまー」
二十五番はいつものようにへらへらと笑っていた。苦しいことも悲しいことも知らない子犬のような笑顔だ。十三番は二十五番の境遇など何も知らない。十三番にとって二十五番はエージェントとしての先輩、それだけだ。それでも分かることがある。二十五番の人生は碌なものではなかったのだろう。そうでなければ十三番と同じ場所で停滞などしていない。
「帰りの飛行機用意したよー」
「移動はいつ?」
「明日ー」
「早いな」
「それだけ重要度が高いってことだよー」
西園寺はぼんやりと十三番達の話を聞いていた。我関せずの態度に十三番は少し呆れた。
「西園寺さん。聞いているのか」
「え、はい。すいません」
「別に謝らなくてもいいが。明日出発することがわかればいい」
「は、はい」
二人のやり取りを聞いた二十五番がくすくす笑う。
「何を笑っている。二十五番」
「いやー、十三番ちゃんと西園寺ちゃんって似てるなーっと思って」
「そうか?」
言われて気がついた。自分と西園寺は似ている、と。ありふれた幸せをある日突然手放さなければならない運命。咎を背負った父親がいること。そして何より、無力な存在であること。
西園寺は気がついていた。だからあんな辛そうな顔をした。つまり西園寺は十三番に同情したのだ。同じ道の先輩として。
「いや、真面目なところがさー。私って不真面目だからね」
しかし知ってか知らずか二十五番はおどけて言った。
「気がついているなら直せ」
「あはは」
冷ややかに十三番が言うと西園寺は愛想笑いを浮かべた。




