第二十七章 父親
「私の父は、祖国に民主化をもたらそうとした。教養のある人だったから、祖国の現状に我慢ができなかったのだろう。革命を起こそうとしたんだ。
しかし計画は情報が流出して、未然に防がれた。私達母子は祖国に捕まった。処刑されるのが本来の道というものだった」
西園寺は黙ったままだった。十三番は西園寺の顔を見なかった。ただ何も映っていないテレビを見ながら話した。
この高性能なテレビも、十三番の国の人間の多くはそんなテクノロジーを知らずに一生を終える。十三番の祖国では最先端の科学技術を享受できるのは一部のエリートのみだ。十三番の父はそれを変えようとした。
「しかし祖国の人材不足と私たっての希望で私は今の仕事につくことになった」
一呼吸おいた。
「…私は父が憎い。私と母を捨てた父が。だからその父に復讐するために今こうして祖国のために働いている」
十三番の父は亡命した国で悠々自適な生活を送っているらしい。あの男は国を変えるには仕方なかったと、十三番達を置き去りにしたことを正当化していた。十三番はテレビでそう語るあの男を見ていた。胸に去来する憎しみをかみしめながら。
理屈で考えるなら。平和な世の中で冷静になって考えれば。悪いのは父ではなく、祖国ということになるのだろう。しかし十三番は祖国よりも父を憎んだ。それは十三番が昔から祖国から洗脳教育を受けていたからということもあるだろう。
しかし何より近いのは父が自分達を選んでくれなかったことに対する嫉妬だ。国を変えるという大義名分を自分達母子よりも優先した。十三番は悔しかったのだ。父が自分達を選ばなかったことが。
語り過ぎてしまったと十三番も思った。十三番は西園寺の反応をちらりと伺う。
何故か西園寺は泣きそうな顔をしていた。十三番は理解できなくなる。何故、今西園寺がそんな顔をするのか。十三番には分からない。
「…辛かったんですね」
そういう西園寺の声は湿っていた。




