第二十五章 説明
「悪意誘発性ウィルスというのは、自然界にもともと存在するウィルスでした。この悪意誘発性ウィルスに感染すると、動物は理性を無くし攻撃性を高めます。実際にこれは今までもかかっている人間はいるんですよね。日本でいうと…例えば狐憑きとか。
私の父は悪意誘発性ウィルスの自然繁殖に成功しました。悪意誘発性ウィルスを使えば、凶悪なバイオテロを引き起こすことが出来ます。学校からでる時、私はあのウィルス
私が狙われているのは悪意誘発性ウィルス見つけだした張本人だからでしょう。また同じような発見が私に出来ると思われている…」
そう一息に言って西園寺は俯いた。十三番は西園寺の目をじっと見る。仕事柄十三番はいろいろな人を見てきた。そして分かったのは、人の心はその人の表情からでは把握出来ないということだ。女子供さえ容赦なく殺すような人もお涙頂戴の映画で本当に感動してるかのように演技できる。心の中で何を考えているかなんて誰にも分からないのだ。そう、自分さえも。
十三番が見る限り、西園寺の表情から読み取れることは圧倒的な無だった。西園寺は敢えて表情を消して話しているのだろう。あるいは西園寺もどんな表情を浮かべていいか分からないのかもしれない。
「恐らく、私の祖国は君を利用しようとしているんだろうな」
何と言っていいか分からなかった。ただ思ったことを口にした。というよりそもそも中学校の自由研究で未知のウィルスを発見するなんてどれだけ本格的な自由研究なんだ、とも思ったが。
「…ええ。そうでしょうね」
西園寺は神妙に頷いた。
「分かった上で、抵抗はしないんだな」
十三番も声から温度を消すように努めた。
「はい」
西園寺はまたも無表情でそう言った。
「抵抗なんて無駄ですから」
どこか大人びた口調だ。
「そういう杉野さんはどうしてこんな仕事やっているんです?」
西園寺はすみわたった目で十三番に聞いてきた。いつの間にかテレビの電源は切られていた。




