第二十四章 説明
全く、ニュース番組というのは懲りずに同じような報道をくりかえしているものだ。時間帯を変えても、同じような報道を飽きもせず、流している。一日中テレビに張りついているだけで、アメリカの銃規制の問題やアフリカの飢餓の問題について一家言持てるようになった気がする。
顔が割れているということで、西園寺の護衛という体のいい待機を命じられた十三番はひたすらテレビを見ていた。二十五番は仕事と言って何処かに出かけていった。十三番がニュースを見ている理由は、年頃の受験生のように時事問題に関心を持っているからではない。西園寺が見たいと言ったからだ。
西園寺はやたら真剣な表情でテレビを見ている。もはや親の仇を睨み付けているといってもいいくらいの視線だ。
そしてふと十三番は思い出した。親の仇といえば…
「西園寺さん。母親のことは気にならないのか」
「えっ」
今まで退屈そうにしていた十三番が突然声を掛けてきたのに西園寺はいたく驚いた。びくんと肩が揺れる。西園寺はテレビから目を逸らし、十三番の方を向いた。
「…はい。気になります。でも無事なんですよね?」
「確かなことは言えないな」
本音だった。かなり冷たい言い方になるだろうが、下手に誤魔化す方が西園寺の為にならない。
「でも、私が変に動くとお母さんまで巻き込んでしまうから…」
「巻き込む、ね」
西園寺の言葉を味わうように口の中で転がす。純粋におかしな言い方だと思った。十三番の中の不信感は増していく。西園寺は何かを知っている。十三番の知らない何かを。
西園寺は十三番のことを信頼できると言った。では十三番は西園寺を信頼しているのだろうか。答えはでない。なにせ十三番は、長く他人を信頼するような生き方からは遠ざかっていたからだ。
しかし西園寺に信頼できると言われた時、十三番は胸がざわついた。十三番も西園寺を信頼したい、とそう思った。信頼するためにはまだ西園寺雫という人物のピースが足りない。そのピースを手に入れるために今、自分がなすべきことは…。
考える。そして決心して聞く。
「西園寺さん。君は自分が何でここに誘拐されているか知っているのか?」
「?はい。自由研究のことですよね?」
きょとんとして答える西園寺。十三番が深い葛藤の末、質問したというのにあっさりとした返答だった。突然の質問に西園寺は戸惑っていたが、寧ろ十三番の方が戸惑う。隠しているわけではなかったのか。
いや、そういえば。十三番は西園寺に知っているのかと聞かれた際に、知ったかぶりをしたのだった。西園寺は十三番はもう西園寺誘拐の理由を知っていることが前提だったのだろう。
「自由研究ってなんのことだ?」
「え、知らなかったんですか?」
目を丸くして驚く西園寺に十三番は居心地の悪さを感じた。
「所詮、私は末端のスパイだ。任務の詳しいことは何も知らない」
「そうなんですか」
「…教えてくれないか?」
「いいですよ。でも、私、説明下手ですから…」
「知っている。君に日本史を教えてもらった時、大事なことを言いそびれたり、同じことを何回も言ったりしてたよな」
学校での日々がもはや懐かしい。十三番は物思いにふける。珍しく、いや初めて西園寺は十三番に怒りを露にした。顔を赤く染め、十三番を膨れたように軽く睨む。十三番にしてみたらちっとも怖くなかったが。寧ろ子供が拗ねているよえで微笑ましい。
「し、失礼ですよ」
「たまには私がやらかえしたっていいだろう。君には一回、私の悪口を言われたんだから」
風呂でのことを思い出したのだろう。西園寺は不服そうに
「わ、悪口じゃないですよ」
と反論した。
「まぁ、これでお相子だ」
十三番が薄く笑う。すると西園寺ははっとしたように黙りこんだ。それから暫くすると話始めた。
「ま、まあ仕方ありません。説明します。私、夏休みの自由研究で鳥の生態について調べたんです。その時に発見してしまったんです。悪意誘発性ウィルスを」
「悪意誘発ウィルス?」




